第30話 あの言葉の意味

どのくらいその場に座り込んでいたのか、気付けばすっかり日が昇っていた。

ジェフリーは重い体を起こし、邸宅へと歩き始める。

邸宅ではなかなか帰ってこないジェフリー達を心配して、ユナとロイが玄関先でウロウロと歩いていた。

やっと戻ってきたジェフリーの顔は泣き腫らし、何があったのか、何故、1人なのかと尋ねると小さな声で、ジュンは帰ったと呟き、ジェフリーはフラフラと部屋へ入って行った。

その日の朝は、邸宅中が静まり返り、ただアリアの泣き声だけが響いていた。


「もう、見てらんないわ」

ユナは心配そうに言いながら、ダイニングでウロウロと歩いていた。

「ユナ、落ち着け」

ロイの止める声に、ユナは怒りを露わにする。

「だって、帰ってきてジュンの着ていた服を抱きしめてまる一日中寝てたかと思ったら、今度は食事も睡眠も取らずに、一日中、服を抱きしめて座ったまま、外を眺めているのよ!?」

「それだけ、ショックだったんだろう。もう少し時間が必要なんだよ」

「でも、あんなんじゃいつ倒れてもおかしくないわよ」

「俺が行ってくる」

ユナ達の会話を聞いていたラグナが、いきなり席を立ちジェフリーの部屋へと歩き始めた。その後をユナ達が追う。


「おい、いい加減、部屋から出てきて飯をくえ」

乱暴にドアを開けると、ズカズカとジェフリーのそばに歩いて行き、胸ぐらを掴む。

それでも、ジェフリーは返答もせずに視線を外へと向ける。

「いずれこうなるとわかっていたんじゃないのか?それでも、2人でいるって決めて側にいたんだろ?お前の今の姿を見たらあいつが悲しむぞ?」

「・・・ほっといてくれ」

「ほっとけるか!?俺達はもう家族なんだ。家族の心配をするのは当たり前だろ?あいつは、お前に家族を残してくれたんだろ?いずれ離れる事がわかっているから、1人にならないようにここに連れてきたんだろ?あいつの気持ちをわかってやれよっ」

「お前に・・・お前にジュンの何がわかるっ!」

「お前達2人の事は知らんっ!だが、あいつのお前を思いやる優しい気持ちだけはわかってるつもりだ。それは、お前もわかっているだろ?」

ラグナの声に、ジェフリーは項垂れて涙を溢す。

「わかってる・・・でも、ここにいて欲しかった・・・あの婦人が言ってたように、悪縁は切った。あの家には未練はなかったが、支配されてきた鎖を切るのは並大抵な覚悟では出来なかった。それでも、あの婦人が言ってたから、私はジュンのそばで生きるために鎖を断ち切った。それなのに・・・」

嗚咽を漏らしながら、うずくまるジェフリーにラグナが服を引っ張り体を起こす。

「おい、その婦人ってのは誰だ?何を言われた?」

「知らない・・・何故か私達の前に現れて、私達は深い縁があるだの、ジュンはこの世界にいてはいけないだの、私に悪縁を切る勇気はあるかと言っていた・・・だから、私は切ったのに・・・違ったのか・・・?」

力無い声で答えるジェフリーの頬を、ラグナがペチペチと叩く。

「おい、今から王都に行くぞ。もう一度、その婦人に会って話を聞くんだ。そうやって籠って泣いてないで、諦めきれないのなら他にまだ手があるのか考えるんだ」

「ラグナ!王都に行くだなんて・・・もし、伯爵夫人に会って何かあったらどうするのよ」

ユナが慌てて止めるが、ラグナは鼻で笑って言い返す。

「ここに来てだいぶ経つんだ。追って来ないってことは何も無いって事だ。それに・・・ジェフリー、お前はまだあいつらが怖いか?」

「・・・いや、怖くない」

「なら、決まりだ。あ、どうせならみんなで行こう。アンナ姉さんの墓、見つけたんだろ?みんなで会いに行こうぜ」

ラグナの提案に、ユナが何度も首を縦に振る。

「そうね。姉さんに会えるいい機会だものね。それに、みんなで行けば怖くないわ。何かあっても私達がジェフリーを守るわ。もう、1人になんかさせない。ジュンの為にも・・・」

ユナの力強い声に、ジェフリーは涙を流しながら床に頭をつける。

「ありがとうございます」

その声に、ラグナは顔を上げろとジェフリーの背中を摩った。

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