第29話 きっと、また・・・

「ジュン、そんなに食べたらお腹壊すぞ?」

呆れたような眼差しでジェフリーは、ジュンを見つめる。

ジュンは片手に三本の肉の刺さった串を持ちながら、ジェフリーに顔を向ける。

「だって、今までウサギだったから食べてみたくても食べれなかったじゃないですか!ずっと食べてみたいと思ってたんです」

嬉しそうに肉を頬張りながら、ジュンは答える。

ジェフリーは小さくため息を吐きながら仕方ないなと言葉を漏らす。

「ジェフリーさん、これ食べ終わったら、あそこのパンケーキ食べたいです!」

「まだ、食べるのか!?」

「だって、ユナさんの料理も美味しいけど、この世界にこんなに美味しい食べ物があったなんて・・・僕、食欲が止まりません」

ジュンは早く、早くとジェフリーの手を引きながら足早に歩く。

するとジェフリーに顔を向けたまま歩いていたせいか、何かに躓き倒れそうになるが、ジェフリーがすかさず手を伸ばし、抱き止める。

「危ないではないか。そうそう無くなりはしないのだから、そんなに急がなくてもいいだろう?」

ジェフリーはそう言いながら、ジュンの口元に付いたソースを指で拭い、舌で舐めとる。ジュンは顔を赤らめながら、ポツリと呟いた。

「ジェフリーさん、その手・・・・」

「あっ・・・・」

バツが悪そうに口を籠らせるジェフリーに、ジュンはふふッと笑って見せる。

「気付いてました。腕、もう良くなったんですよね?」

「すまない・・・」

「ふふっ、いいんです。僕も楽しかったから」

ジュンはそう言いながら、またジェフリーの手を引いて歩き出す。

そして、屋台でパンケーキを受け取ると、どこかに座ろうと声をかける。

2人は辺りをキョロキョロさせてながら、目ぼしい場所を見つけると人混みを掻き分け、少し静かな木の根元に腰を下ろした。


目の前には楽しそうに笑い合う人達が歩いている。

それを見ながら、ジュンはジェフリーの肩に頭を寄せる。

「ジェフリーさん、ここに来て本当に良かったですね」

「そうだな」

「ここには、ジェフリーさんをいじめる人は誰もいません。だから、ずっと笑ってていんです。幸せだなぁって実感しながら毎日を送るんです」

「あぁ。そうやって暮らせていけるといいな」

「きっと暮らしていけます」

ジュンは大丈夫という言葉と一緒に、ジェフリーの手をぎゅっと握る。

ほんの少し沈黙が続いた後、ジュンがポツリと呟く。

「ジェフリーさん、僕もジェフリーさんと出会えて良かった。僕もこうやってのんびり毎日を過ごしたり、泣いたり笑ったりしたのは久しぶりだったんです」

「・・・・・」

「僕、お母さんが死ぬ時、まだ小さかった弟を守るって約束したんです。それで、お父さんが仕事でいない時はずっと弟の面倒を僕が見てて、お父さんが体壊してからは、学校も諦めて毎日毎日掛け持ちして仕事してたんです。だから、大きな声で笑ったりする事も忘れちゃって、泣く事もできなくて、ただ毎日が慌ただしかったんです」

ジュンはぼんやりと目の前の笑っている人達を見つめながら、言葉を繋いだ。

「だから、本当に楽しかった。それから、人を好きになる事ができた事が本当に嬉しかったです。それが、ジェフリーさんなのが、本当に嬉しい・・・」

最後の言葉が涙声になって、喉に詰まる。

「ジュン・・・ダメだ・・・行かないでくれ・・・お願いだ・・・」

ジェフリーはジュンを抱き寄せ、決して離さないとばかりに強く抱きしめる。

それでも、ジュンの体は初めて人の形を形どった時の様に、だんだんボヤけて透け始めた。

「ジュン・・・ここにいてくれ・・・私の側にいて欲しい・・・私を1人にしないでくれ・・・」

「ジェフリーさん・・・ジェフリーさんは、もう1人ではありません。僕、それが一番嬉しいんです。そう思ったら思い出しちゃったんです。僕の本当の名前・・・」

ジュンは少しだけ体を離し、ジェフリーを見上げる。

涙で滲むジェフリーの顔もまた、涙が溢れていた。

「僕の名前は、白石 純一。覚えてて欲しい」

「ジュン・・・ダメだ・・・」

「ジェフリーさん、心の底から愛しています。だから、キスして欲しい」

ジュンの願いに、ジェフリーは首を振るが最後のわがままを聞いて欲しいと漏らすジュンの言葉に、ジェフリーは嗚咽を漏らす。

それから、必死に涙を堪え、ジュンをまっすぐ見つめるとそっと唇に触れる。

その唇はジュンの姿が消えるまで離れる事はなかった。

そして、姿が消えた瞬間、ジュンの声が小さく耳元で聞こえる。

(きっと・・・また・・・・)

途切れ途切れの声が消えた途端、ジェフリーはその場で泣き崩れた。

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