第28話 訪れる予感

誰かが髪を撫でている・・・

優しくて大きな手・・・あぁ・・・この手を知ってる・・・

早く起きなきゃ・・・


「ジュン・・・ジュンっ!」

そう呼ばれ目を覚ますと、心配そうに覗き込むジェフリーの姿が目に止まる。

「ジェフリーさん・・・」

ジュンがそう呼ぶと、ジェフリーは安堵のため息を吐く。

ジェフリーの体にはまだ包帯が巻かれていて、枕を背に上半身を起こしたまま隣に寝ていたジュンの髪を撫でていた。

「ジェフリーさん・・・体は?熱は下がりましたか?」

「お前は・・・はぁ・・私は大丈夫だ。ラグナとロイが調達してきてくれた薬で、すぐに回復した。問題はお前だっ。どれほど心配したことか・・・」

「僕・・・どうして・・・・」

「原因はわからない。ただ、私を看病している最中に気絶したとしか・・・お前は三日も眠ったままだったんだぞ?」

「そんなに・・・?」

「あぁ。お前が手を握ったまま離さないから、このままここに寝かせていたらしい。ジュン、何があった?」

「わからない・・・でも・・・」

「でも?」

ジェフリーが問いかけるが、ジュンは口を閉ざしたままジェフリーを見つめた。

「・・・ジュン、起きれるか?」

「多分・・・」

「すまないが、少しだけ体を起こしてくれないか?私の腕に捕まってもいい。本当は両手で抱き起こしたいのだが、まだ片腕が上がらないんだ。ジュン、お前を抱きしめたい・・・」

「うん・・・僕も・・・」

ジュンはゆっくりと体を起こし、ジェフリーに捕まりながら体を寄せていく。

ジェフリーは、片手でジュンの腰に手を回し引き寄せる。

そして、強く抱きしめた。

ジュンも怪我に触れないように気をつけながら、ジェフリーの体に腕を巻き付ける。

「ジュン・・・ジュン・・・好きだ。好きだ、ジュン。愛してる」

「僕もジェフリーさんが大好きです。ジェフリーさん、愛してます」

いつもは照れくさそうにモゴモゴしながら囁くジュンの言葉が、今は真っ直ぐにはっきりと聞こえる。その事がジェフリーの涙を誘い、より一層、強くジュンを抱き締め、何度もジュンにキスをした。

深く長いキスを・・・。



「まったく、あんなに心配させといて、目覚めたかと思ったら、一時も離れずベッタリと・・・」

ロイがブツブツと文句を言いながら呆れたように、2人を見ていた。

あれから一日で回復したジュンは、甲斐甲斐しくジェフリーの世話を焼いていた。

そして、ジェフリーは動き回る事ができるくらい回復すると、どこに行くにもジュンの手を離す事なく繋いでいた。

今も食事だと言うのに手を離さず、ジュンに食べさせてもらっている。

まるで、離したらジュンがいなくなるかのように、しっかりと握っている。

そんな2人にラグナが確信をついたかのように言葉を発した。

「お前、いなくなるのか?」

その言葉にジュンは苦笑いしながら首を振る。

「ならば、何故、こいつはずっと繋いでいるんだ?」

「お互い生死を彷徨ったんだ。生還した今、恋人と片時も離れたく無いのは普通ではないのか?」

淡々と話すジェフリーに、ジュンは顔を赤らめ俯き、周りは呆れた様な視線を向ける。

「・・・・そういう事にしといてやる」

ラグナは何かを察したように、小さくため息を吐いてダイニングから出ていった。

「ジュン、ジェフおじさん、今日のお祭りは行けるの?」

アリアにそう聞かれ、ジュンはハッとしたような顔をする。

「そう言えば、今日だった!」

「行くなら僕もジェフおじさんを支えてあげるよ」

いつの間にかジェフリーの隣に来ていたダニエルも、心配そうに見上げながら2人を見つめていた。

「今日は無事収穫を迎える事に感謝する祭りよ。無理ない程度に参加するといいわ。子供達は私達が連れて行くから、2人でデートだと思えば楽しいでしょ?ずっと家にいたら気が滅入るもの」

ユナが食器を片しながら2人に声をかけると、ジェフリーはそうだなと呟く。

「よく考えてみたら、一緒に探索や旅はしたが、恋人になってからは、2人でゆっくり出かけた事はないな。ジュン、一緒に行こう。いい思い出になる」

ジェフリーの“いい思い出“という言葉に、ジュンは少しだけ戸惑ったが、すぐに満面の笑みを浮かべてハイと答えた。

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