第27話 近づく小さな足音

部屋でジェフリーが手当をされている間、ロイから事情を説明される。

狩りは順調に進んで帰宅準備をしていたが、村の子供が父親の帰りを待ち侘びたのか森にまで来てしまった。

その時、草むらから獣が飛び出してきて、ジェフリーは子供達を庇って肩を噛まれたらしい。幸いジェフリーが持っていた短剣で獣を刺し、怯んだところを仕留めた為、傷が致命傷になるまでは至らなかったが、子供達の安否を確認終えた途端、倒れたまま意識が戻らなくなったそうだ。


村医者が手当を済まして部屋から出てくるが、眉間に皺を寄せ、口を開く。

「傷はそこまで深くは無いのだが、恐らく感染症だ。熱がひどい。薬は飲ませたが、あとは体力次第だ」

その言葉にジュンは、ジェフリーの元へ駆け寄り手を握る。

そして優しく髪を撫でながら声をかける。

「ジェフリーさん、頑張ってください。これから沢山幸せになるんですよね?熱なんかに負けちゃダメです」

そう言いながら、近くにあった桶からタオルを取り絞ると、ジェフリーの汗を拭っていく。

「ジェフリーさん、今度は僕、人間の手足があるからちゃんと看病できますよ。僕がずっと側で看てますから、早く目を覚ましてくださいね」

濡れタオルを首元に押し当てながら、必死に声を絞り出す。

すると、後ろからロイの声が聞こえる。

「ジュン、俺は今から馬で隣街に行ってくる。そこにラグナが一泊して明日ここに向かう予定のはずだ。ラグナとおち合って薬を調達してくる。村にある薬だけでは足りないはずだ」

「ロイさん・・・もう日が暮れます。危険では無いですか?」

「大丈夫だ。こんな小さな村では、夜に調達に行くのはよくある。ジェフリーの事は任せた」

「ロイさん・・・よろしくお願いします」

ジュンはすかさず立って頭を下げると、ロイはジュンの肩を叩き、走り出した。

ロイと入れ違いに祖母が入ってくる。

「ジュン、今、ユナが薬湯を作っている。出来上がったら飲ませてやりなさい」

「おばあさん・・・ありがとうございます」

「いいのよ。家族だもの、当たり前じゃない。ジュンも無理はしないで、私達と交代しながら休みなさい。ほら、泣くんじゃないの」

祖母はジュンに寄り添い、ボタボタと流す涙を拭う。

「僕達、ここに来て良かったです。前の邸宅では誰もジェフリーさんの心配なんてしてくれなかった。僕はウサギのままだったから、何も出来なくて・・・」

「そうだったの・・・。ジュン、大丈夫よ。これからは私達が2人を守ってあげる。心配しないで」

祖母は優しくジュンの背中を撫でながら、大丈夫と何度も囁く。

「ジュ・・・ジュン・・」

その声にベットの方へ顔を向けると、ジェフリーがうわ言の様にジュンの名を呼び、隣にいるはずの存在を確かめる様に、自分の隣を手で摩る。

ジュンはすぐにその手を掴み、ここにいますと声をかけるとうっすらと目を開ける。

「なんだ・・・?また、泣いているのか?」

「そうです!ジェフリーさんが心配させるから・・・」

ジュンは少し怒ったような声で、ジェフリーに言葉をかけると、ジェフリーは力無く微笑む。

「大した怪我ではない。すぐに治るから泣くな。濡れたウサギとは寝ないぞ?」

掠れた声でそう返すと、ジェフリーはまたゆっくり目を閉じた。

ジュンは鼻を啜りながらハイと答えた。

そして、ふと日も暮れたのに、自分がぬいぐるみに戻ってない事に気付く。

その瞬間、目の前がぐらりと揺れる。

「ジュンっ!」

祖母の叫ぶ声が遠くに聞こえたが、答える事ができないままジュンは気を失った。


まどろんだ空間で、ジュンの体が宙に横たわったままゆらゆらと揺れる。

(まって・・・もう少しだけ・・・お願い・・・)

誰に言っているのか、何の事を言っているのかわからないまま、ジュンはただ静かに涙を流し続けた。

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