第25話 近づく小さな足音
「ジェフリー、弓は使えるか?」
夕食が終わった頃、ロイが突然訪ねてくる。
「はい。騎士の訓練の際に習った程度ですが・・・」
「そうか。実はな、この村では秋になると収穫祭という小さな祭りをするんだ。それが一週間後なんだが、弓や狩りができる村の男連中と祭り用の肉を、明日にでも狩りに行くんだが、手伝えないか?」
「そう言う事でしたら、ぜひ、お供させてください。遠征の時はよく狩りをしていたので、お手伝いできると思います」
「助かるよ。それと、ユナの弟が明後日には帰ってくる。ジェフリーとジュンの事は手紙で伝えてあるが、戻ってきたら仲良くしてくれ。少し無愛想ではあるが、いい子だ」
「弟さんって、別の街の学校に通っているんですよね?」
アリアに抱かれているジュンが唐突に口を挟む。
「あぁ。一応貧乏貴族でも、いずれはここの当主になる。昔から勉強が得意でな。本来なら王都の学校に行かせるべきなんだが、金銭的に余裕がなくて少し離れた街の学校に通っている。ここを良くしたいって頑張ってるんだ」
「立派な弟さんですね。会うのが楽しみです」
ジュンが嬉しそうにそう返すと、ジェフリーが少しムッとした表情でジュンを睨む。ジュンはキョトンとしたままジェフリーを見つめ返すが、ジェフリーは無言のままそっぽを向いた。
するとアリアがため息を吐く。
「おじさん、男の嫉妬はみっともないって、お母さんが言ってたよ」
その言葉に全員がアリアへと視線を向ける。
「ジュンは可愛いから心配だろうけど、ウサギの方がもーっと可愛いから大丈夫だよ。ラグナおじさんは、ぬいぐるみには興味ないから」
大人ぶった口調に、今度はダニエルがため息を吐く。
「だからいつも言ってるだろ?アリアは何でもすぐ大人の真似するから、アリアの前で喧嘩するなって」
「お兄ちゃん、ひどいっ」
2人のやり取りに周りの大人達が笑う。ジュンは隙を見て、アリアの膝から飛び降りるとジェフリーの元へと駆け寄る。
その姿を見てジェフリーはジュンを抱えると、照れくさそうに部屋へと逃げていく。赤くなった顔を見上げながら、ジュンは小さくジェフリーさんが一番素敵ですと囁いて笑った。
翌日の夕方、ジュンはアリアとダニエルを連れて、村の入り口でジェフリー達の帰りを待っていた。
同じように何人かが村の入り口に立っていて、その波を掻き分けて一番前に陣取っていた。
一時間ほどして、ゾロゾロと村外れの森から男達が荷台を引いて帰ってくるのが見えた。ジュンは背伸びしてジェフリーの姿を探すがなかなか現れず、不安から鼓動がゆっくりと早打ちし始める。
隣ではおかえりと声をかける者や、荷台にたくさん乗った狩った獲物を見て褒め称える声で騒がしくなっていた。
だが、いくら待ってもロイとジェフリーの姿が見えない。
その事でアリアやダニエル達も不安に駆られ、ジュンの手をぎゅっと握る。
ジュンは大丈夫だと自分にもアリア達にも言い聞かせながら、ずっと遠い森へと視線を向ける。
すると、一つの荷馬車が慌ただしく駆け寄ってくる。
その荷台を引く馬にはロイが乗っていた。その姿にジュンの鼓動が大きく跳ねる。
「怪我人だ!道を開けろっ」
ロイの大声にジュンはダニエルにアリアを任せ、荷馬車へと駆け寄る。
村の入り口で止まり、ロイが馬から降りる。
荷台には1人の男と、泣きじゃくる子供が2人。ジェフリーの姿がない。
「ロイさん・・・あの・・・ジェフリーさんは・・・」
「ジュン、すまない。詳しい事はあとだ。今、起き上がれないんだ。早く邸宅へ運ぼう」
そう言われ、荷台を覗き込むと肩を布で巻かれ、横たわっているジェフリーの姿があった。
巻かれた布には血が滲んでいる。ジュンは震えながらジェフリーに声をかけるが反応はなく、ロイに促され乗っていた子供達と入れ替わり荷台へと上がる。
そっとジェフリーの手に触れると、その手は温かく、少しだけピクリと動いた。
「ジュン、そのまま邸宅へ向かうぞ」
ロイの声で我に返ると、ジュンの側でアリア達が泣きながらジェフリーを見つめていた。その姿に声をかけてあげたいが、ジュンは声が出ずにただ口をパクパクさせているだけだった。
荷馬車はそう遠くない邸宅まで、一目散に走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます