第24話 束の間の安らぎ

「ジューン!」

5歳になったばかりのアリアが、ジュンに向かって走ってくる。

「アリアちゃん!」

そう言って微笑みながら手を伸ばすジュンの姿は、人の姿だった。

アリアを抱き上げると、嬉しそうな表情を浮かべ椅子に腰掛けながらおしゃべりを始める。

その光景を愛おしそうに、離れた所でジェフリーが見つめていた。


ここに来て一ヶ月が経った。

ジェフリーは農作業を手伝いながら、家族の一員として過ごしていた。

祖母と母の妹のユナ、ユナの旦那のロイ、そして12歳のダニエル、5歳のアンナ。

皆、貧しくても仲のいい家族だった。

この村は男爵家の領地だったが、酷い干ばつが続いた年に男爵家の財産を投げうった結果、没落してしまったという。その時に当主である祖父は、病気で他界した。

それでも、決して多くはいない村の人達との関係も良好で、互いに助け合って過ごしている。

ジェフリーは、初めて心休まる日々を過ごしていた。

そして、ジュンは何故か不安定だった姿を取り戻していた。

初めて来た日、まだ家族と話している最中にジュンがいきなり人の姿になり、みんなを驚かせた。

怯える家族にジェフリーは大丈夫ですと声をかけながら、ジュンを側へ連れてきて家族に説明を始める。

最初は半信半疑で話を聞いていたが、夕方になりジュンがぬいぐるみになった姿を見て、信じてくれた様だった。

ジェフリーは話の最後に、ジュンの事を最愛の人だと臆する事なく伝えると、家族は少し戸惑いながらも、ジュンを受け入れてくれた。

何よりユナの子供達がとても懐いてくれた。それから、ジュンは子守担当だ。


「ジュン、今日は私と寝てくれる?」

「この前一緒に寝たばかりだろ?」

「だって、ジュンのウサギはフカフカしてて気持ちいんだもん」

口を尖らせながら、ジュンの膝の上でアリアが不貞腐れる。

それからすぐにジェフリーの方へ顔を向けると大きな声で話しかける。

「ジェフおじさん、いいよね?おじさんはもう大人だから、夜にぬいぐるみジュンは抱っこしなくても平気だよね?」

その声にジェフリーは笑いながら歩み寄ってくると、アリアの頭を撫でる。

「そうだな。私は大人だからぬいぐるみは抱っこしないな」

「そうでしょう?じゃあ、今日はジュンと寝る」

「ダメだ」

ジェフリーはそう言いながらアリアを抱き上げる。

「ジュンは私の恋人なんだ。人間でもぬいぐるみでもそれは変わらない」

「ジェフリーさん・・・」

照れたように言葉を漏らすジュンに、ジェフリーは微笑みながら頬にキスをする。

腕に抱かれたままのアリアはキャーと小さな声を漏らしながら、口元に手を当てる。

「恋人同士はいつも一緒にいないといけないんだ。ジュンがいないと私が寂しい」

「しょうがないなぁ。じゃあ、今日は我慢してあげる」

アリアは頬を膨らませながらぶつぶつと言葉を漏らす。

それを見てジェフリーとジュンは声を出して笑った。


その夜、布団に入りながらジュンが優しい声でジェフリーに問いかける。

「ジェフリーさん、幸せですか?」

その問いに、ジェフリーが微笑む。

「あぁ。家族ができて、こうしてジュンと一緒にいれる。幸せすぎて怖いくらいだ」

ジュンはそっと短い手を伸ばし、ジェフリーの頭を撫でる。

「怖がらなくていいんです。言ったでしょ?ジェフリーさんは幸せになるべき人だって。早く幸せに慣れてください。そしたら、きっともっと幸せになれます」

「そうだな。ジュン・・・」

「なんですか?」

「お前に会えて良かった。ジュンが私を幸せにしてくれた。温もりも優しさも、笑う事も全部ジュンがくれたんだ。感謝しきれない」

「ジェフリーさん・・・」

「ジュン、好きだ。愛している。この先もずっとジュンだけを愛し続ける。だから、側にいて欲しい。ずっとずっと私の側に・・・」

言葉を言い終えないまま、ジェフリーは黙り込む。

そして、ジュンをそっと抱き寄せる。

ジュンも何も言わず、ジェフリーの胸に顔を埋める。

不安を取り除くように、2人は身を寄せ合って眠りについた。

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