第20話 ジェフリーの決断

一週間後・・・

ジェフリーは1人母親の墓石のそばに立っていた。

そして、膝をつき墓石を抱きしめる。

「母さん、私を許して欲しい。私は幸せになりたい。だから、諦めたくないんだ。もし、無理でも後悔はしたくない」

そう囁くと、慈しむように墓石を撫でて微笑む。

そして、家で待っている愛おしい人を思い浮かべる。

すると風が髪に触れ、ジェフリーに囁くかのように撫で付ける。

「ありがとう、母さん・・・」

ジェフリーはもう一撫ですると、ゆっくりと立ち上がり墓石に背をむけ歩き出す。


帰宅早々、ドアが荒々しく開かれる。

振り返えらずとも誰なのかわかるジェフリーは、そっとジュンを体で隠し、ベットの布団の中へ押し込む。

「ジェフリー!騎士団を辞めたってどういう事なの!?」

大声で叫ぶのは伯爵夫人だ。

「・・・王宮騎士団の中にも見張りがいたとは、驚きですね」

「そんな事、どうだっていいわ!一体どういう事なの!?」

「そのままの意味です。もう十分恩義は返しました。私はここを出て行きます」

「何を言っているの!?ラットはまだ全快したばかりよ!社交界も去年果たしばかりで、あなたはラットの補佐をしなくてはいけないの!それに、あなたの教育にかけたお金はこんなものでは足りないわ!その身が果てるまで恩義を尽くしなさい!」

「いいえ。使用人として働きながら受けた教育はマナーなどの基礎のみです。入隊してからは学びの機会は与えられず、独学で学びました。衣食住も入隊してからは伯爵家に負担になる程、お金をかけていません」

「生意気なっ!あんな貧乏暮らしから救ってあげただけでも十分恩義に当たるでしょう!?」

「そうですね・・・それは感謝に値します」

「だったら・・!」

「ですが!私にとってここでの暮らしは地獄でした。それに、下っ端の階級とはいえ、私は騎士としての年数も腕も十分上の階級でしたから隊長として勤め、給与もそれに見合う給与だったはずです。勤めていた間の賞金も全て伯爵家の一部となりました。それだけあれば、十分に恩義は返しています」

ジェフリーが力強く言い切った瞬間、鈍い音が響き渡る。

それは夫人がジェフリーの頬を叩いた音だった。だが、ジェフリーは微動だにせず、夫人を睨みつける。

すると夫人が小さく悲鳴を上げる。

その視線の先はジュンがいた場所・・・ジェフリーは慌てて振り返ると、そこには人間の姿のジュンがベットの上で立っていた。

「あなた・・・何か術でも使ったの?あれは何なの!?」

その声は化け物でも見たかのようにうわずっていた。

それもそのはず、ジュンの姿は完全な人間ではなく透き通ってゆらゆらと揺れていたからだ。

それを見たジェフリーはニヤリと笑い、夫人に視線を向ける。

「邸宅での噂はご存知ですよね?私は術を使ったのではなく、アレに憑かれたようです」

そう言うと、後ろからうっうっとジュンの声がする。

その声に、夫人は叫び声を上げ部屋を出ていった。


ジェフリーは深いため息を吐きながら、ドアを閉め、ジュンの元へと足早に駆け寄りジュンを抱きしめた。

ジュンは脅かすために声を出したのではなく、泣いていたからだ。

嗚咽が呻き声に聞こえたのだろう。

ジェフリーはジュンの背中を抱きしめながら、耳元で囁く。

「大丈夫だ。こんなのは痛くない」

「痛く・・・痛くないわけがない・・・例え頬が痛くなくても、ジェフリーさんの心は痛いです・・・」

嗚咽を漏らしながら話すジュンが愛おしくて、何度も大丈夫だと囁き続けた。

「ジュン・・・久しぶりにその姿になったんだ。泣き顔ではなく、笑顔がみたい。ぬいぐるみではその愛らしい笑顔はわからないからな」

「ジェフリーさん・・・」

ジュンは必死に涙を我慢して、にこりと笑って見せる。

その笑顔がジェフリーの心を満たす。

愛おしくてたまらない・・・。

そう伝えるかのように、ジェフリーは微笑み、キスをした。

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