第15話 託した願い

どのくらい時間が経ったのかわからないほど、2人は静かに部屋の隅で座り込んでいた。

それからゆっくりと立ち上がると、ジュンをまたカバンに入れる。

ドアを開くと、少し日が傾いていた。

日が暮れる前にもう少し街を回ろうと、ジェフリーが歩き出す。

この時間になると、小さな路地では昔と同じ風景が現れる。

寝床を確保している子どもの姿だ。

ジェフリーはその子供達の側に行くと声をかけた。

「今日は雨が降る。ここでは風邪を引くからあそこの家で寝るんだ」

「勝手に入ったら怒られる・・・」

オドオドしながら答える子供に、ジェフリーはにこりと微笑む。

「私は昔、あの家に住んでいた。もう10年以上も前だ。だが、未だに空き家だ。今後も誰も住むことはないだろう」

「でも・・・」

「・・・・もしかして、お前はジェフか?」

突然名前を呼ばれて、振り返ると路地の奥からよろよろと老人が現れる。

その姿にジェフリーが眉を顰める。

「シドおじさん・・・?」

「あぁ・・・やはり、ジェフか。大きくなったな・・・」


道の傍に座り、ジェフリーはシドとの再会を懐かしむ。

「お前が伯爵の家に連れて行かれたと聞いて、心配していた。お前のお母さんの身の上は聞いていたからな・・・辛い思いはしてないか?」

「・・・ええ」

「そうか・・・仕方がないとは言え、どちらが幸せなのか、わからないな・・・すまないな・・・私では何も役に立てなかった」

「そんな事はないです。母の事を・・・私の事を覚えていて下さっただけでも、感謝しています」

「そうか・・・・」

シドは少し鼻を啜りながら、ジェフリーの肩を叩く。

鞄の中からも、小さな啜りが聞こえていた。

「そういえば・・・お母さんの家族とは会えたのか?」

「え・・・?」

「やはり、会えていないのか・・・」

シドの問いかけにジェフリーは首を傾げる。

シドはため息を吐きながら口を開く。

「実はな、お前が去って少ししてから、お前のお母さんの家族だという人が訪ねてきたんだ。どうやら、お前のお母さんは自分の死期がわかっていたのか、家族に手紙を書いていたようなんだ。それで、会いに来たと言っていた」

「そうでしたか・・・」

「伯爵の事は伝えてあったんだが・・・あの家は、その家族がお前との再会を託して買い取ったと言っていた。だから、自由に使っていいそうだ」

「・・・・ありがたいです」

「お母さんの墓には行ったのか?」

「どこにあるのか、わからないんです」

「それも教えてもらえなかったのか・・?お前の暮らしぶりがわかるな。あの草原だ。お前達がよく言っていた草原の大きな木の下だ。あいつら、お金だけ渡して去ったからな。私があの草原に埋めてくれと頼んだ。見つけられるはずだ。会いに行ってやるといい」

シドはそう言うと立ち上がって、ジェフリーの肩を叩くと、どこかへ去っていった。

ジェフリーはその後ろ姿を見つめながら、ぼんやりと空を見上げた。


ジェフリーはそばにいた子供達に、あの家に住むように促し、もし誰かが来たら言伝を頼むと言い残した。

それから街を出ようと歩き始めると、また、あの老婆に出くわす。

そして意味ありげに老婆は微笑み、鞄を、ジュンを指差した。

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