第8話 長い数日間

「ジェフリーさん・・・」

ジュンは部屋をウロウロしながら、ジェフリーの名を何度も呼ぶ。

時折、窓辺に登って外の様子を見ながらまた名を呼び、暗くなると部屋を歩き回る。

それというのもジェフリーが三日も帰ってこない。

先日、メイド達が話していた討伐という言葉が思い出され、心配でたまらなかった。討伐という意味が危険な物だと言うのは、メイド達の話でわかっていた。

だからこそ、不安でたまらなかった。

もしかしたら怪我をして帰れないのでは無いかと、最悪な事を思い浮かべては自分に大丈夫と言い聞かせた。

その日の夜もジェフリーは帰って来なかった。

ジュンは1人、ベットの上でジェフリーの名を呼び続けた。


翌朝、まだ日が上りきらない中、キィーっと小さな音を立ててドアが開く。

その音にジュンはドアへと駆け寄ると、青ざめたジェフリーがそこに立っていた。

「すまない。起こしたか?」

脇腹を抑え、辛そうな表情でにこりと微笑むジェフリーの姿に、ジュンは涙を流しかけよる。

「心配で寝れなかったんです!ジェフリーさん、ケガしたんですか?」

足にしがみつくジュンを、ジェフリーは摘んで抱える。

そのままベットへと運ぶと、一緒に雪崩れ込んだ。

「少し・・・油断してしまった。気がついたら三日も経ってしまていたんだ」

「ど、どこを怪我したんですか?ひどいんですか?」

労わるようにそっとジェフリーに触れるジュンの手を、ジェフリーが取る。

「大丈夫だ。医療班に手当をしてもらった。それより、1人で大丈夫だったか?」

「もしかして僕を心配して帰ってきたんですか?」

「・・・討伐も終えたしな・・・お前が来て来てから家を空けるのはなかったから、少し気になっただけだ」

「ジェフリーさんのバカ・・・・」

ジュンの手を取るジェフリーの手を包みながら、ジュンは嗚咽を漏らし泣く。

「ふっ、泣いてビショビショになったら、一緒には寝ないと言っただろう?」

「泣いていません!」

「そうか・・・すまないが、もう少し寝る。隣にいてくれるか?」

「います!ずっといます!」

ジュンの力強い返事にジェフリーは笑みを浮かべ、そのまま寝入ってしまった。


ジュンは繋がれていない手で、半分はだけた毛布を引っ張り、肩まで上げる。

それから、額に張り付いたジェフリーの髪を避けようと、そっと額に触れる。

そして、ある事に気付く。

「これって熱・・・?」

不思議と痛みや暑さを感じない体ではあったが、何となく触れた所が熱を持っているような感覚を感じる。

ジュンは繋がれた手を何とか引き離し、ベットから飛び降りるといつも抜け出す穴へと向かう。

ドアのそばに見つけた穴・・・今までこの穴を使って外へと出ていた。

まだ、日は登り切らない。

ジュンは一所懸命足を動かし、洗濯場へと向かう。

以前、ここに来たときに棚に乾いたタオルなどを置いてあったのを思い出していた。洗濯場に着くと、よじ登れる所に乾いたハンカチが置いてあるのを見つけ、短い手足を伸ばして登る。

その中から古そうな、なくなっても誰も気に留めないようなハンカチを選び、体に巻き付ける。そして、部屋へと走る。

部屋に戻ったジュンは、ベットの下から縄を取ると洗面所へと向かった。

小さい体でも自分の事はできるように、移動用にと作っていた縄だ。

縄の先には、捨ててあった丈夫な針金が結ばれていて、それを使って壁をよじ登ったり、蛇口を開いたりしていた。投げ方はジェフリーが教えてくれた。

慣れた手つきで洗面所の蛇口を引っ掛けると、そのままよじ登る。

体に巻きつけたハンカチを水で濡らすと、ギュッギュっと絞る。

それでも綺麗に絞り切れないハンカチを、また体に巻き付けジェフリーの元へと急ぐ。自分も体に巻きつけたハンカチもポタポタと雫を垂らすが、怒られるのは後だとベットによじ登った。

息を切らしながらジェフリーの元へ辿り着くと、さっきより顔が赤らみ、汗をかいていた。

ジュンは額にハンカチを乗せ、垂れてくる雫を自分の手で拭いながらジェフリーを見つめた。

その日、誰もジェフリーの部屋を訪れることはなく、誰も気止めてくれないジェフリーの現状に、ジュンは涙を拭いながらジェフリーの看病に明け暮れた。

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