第6話 休日の散歩

「わぁ・・・素敵です!」

腰についたバックの隙間からジュンが外を覗き込む。

「静かにしろ」

ジェフリーはグイグイとジュンを押し込みながら、小さな声で囁く。

今日はジェフリーの休日だ。

何かを思い出すきっかけになればと、ジェフリーが街へと誘ってくれた。

それでも、いい年をした男がウサギのぬいぐるみを堂々と持ち歩くなどできず、ジュンは腰付けバックに入れられたまま街を歩き回った。

ジュンは当初の目的を忘れたかのように、バックの中ではしゃいでいた。

ジェフリーは呆れたようなため息を吐きながら、ジュンを何度もバックに押しれつつ、それでも景色を楽しめるようにちゃんと隙間を作ってやる。

ジュンはそんなジェフリーの優しさが嬉しくて、バックの中でずっとはしゃいでいた。


数時間歩いたあと、少し休もうとジェフリーが言い出し、何かを屋台から買うと街外れの森へと入っていく。

しばらく歩いていくと、開けた場所に着く。

ジェフリーは徐に腰を下ろし、ジュンをバックから取り出す。

「窮屈だったろう?ここなら、あまり人が来ない」

ジェフリーは少しシワになったジュンの耳を整えた後、紙袋から肉を挟んだパンを取り出し頬張る。

ジュンはちょこんとジェフリーの隣に座ると、心地よい風にうっとりする。

「静かで良いところですね。ジェフリーさんは、よくここに来るんですか?」

もぐもぐと口を動かしていたジェフリーが、口にある物を飲み込み、口を開く。

「昔・・・幼少の頃、母と来ていた。小さな硬いパンを一つ持って、私が食べている間、母は木の根元に生える食べれる葉や木の実を摘んでいたんだ。パンは小さかったからすぐに食べ終わるんだが、母が摘み終わるまでは1人で遊んでいた。今は・・・たまにしか来ない」

言葉尻にジェフリーの寂しそうな声が混ざる。

ジュンはそっとジェフリーの足に触れ、にこりと笑う。

「大切な思い出の場所なんですね」

「そうだな・・・それに、別の思い出もある」

「どんな思い出なんですか?」

「そうだな・・・とても・・・とても不思議な思い出だ。もう、朧げでしか思い出せないんだが、とても楽しかったのだけは覚えている。今となっては、それは夢か、私が生み出した妄想では無いかと思っている」

「そうですか・・・」

「それより、何か思い出せそうか?」

急な問いかけに、ジュンは困った顔をする。

「それが・・・何も思い出せないんです。街並みが僕にはしっくり来ません」

「そうか・・・もしかしたらお前は田舎育ちかもしれんな」

「田舎ですか?」

「あぁ。ここは王都だから、街並みが賑やかだ。田舎の方はもっと簡素だ。ここほど人も建物ない。私もここから出たことはないが、母が田舎育ちでな。出稼ぎで王都に来たらしい。何も無いところだが、住みやすい土地だと言っていた」

「田舎町か・・・いつか、いつかジェフリーさんと行ってみたいです」

「・・・・そうだな」

ニコニコと笑顔を浮かべるジュンに対して、ジェフリーはどこか遠くを見つめるような眼差しで、また手に持っていたパンを齧り始めた。


もうすぐ日が暮れ始めるからと、またバックにジュンを入れ、森を抜けると細い路地に老婆らしき人物が座っている。

物乞いかと思い、ジェフリーがポケットから硬貨を取り出し、老婆に手渡すと老婆がにこりと笑う。

「お二人は不思議な縁がありますね」

その言葉にジェフリーがぴくりと眉を上げる。

ジュンも不思議に思い、バックの隙間から覗き込む。

「なんの話だ?」

「旦那様とその小さな不思議な生き物です。強い縁を感じます。ですが、決して交わる事はないでしょう」

老婆はそういうとゆっくりと立ち上がる。そして、にこりと笑った。

快刀乱麻カイトウランマ・・・旦那様はその力を養わなければいけません。御用心くださいませ」

「どういう意味だ?」

ジェフリーの問いに、老婆はただただ微笑む。そんな2人を見ながら、ジュンがボソリと呟いた。

「もつれた麻糸を刀で見事に断ち切る・・・」

ジュンが呟いた言葉に老婆がコクリと頷く。そして呆然とした2人を置いて、老婆は去っていった。

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