99.祠

 子供の頃、峠道の脇に小さなほこらがあった。

 特に禁忌とかは無かったように記憶している。しかし子供のこと、どきどきしながら祠の扉を開けて中を覗いてみた。

 そこにはソフトボール大の、綺麗に磨かれた玉が窪みにはまっていた。

 玉といっても、透明であるとか貴重な感じはしなかった。磨かれてはいるものの、ごく普通の石に見えた。

 それは謎であったからこそ、私の記憶に刻まれているのである。

 大人になってから聞きまわってみると、どうも庄屋の大婆様がひどく大切にしていたものである、とのこと。

 亡くなる直前まで玉のことを聞くので、せっかくだから葬儀の際に新しく祠を作ってまつったのだ。

 それだけである。


 来歴やいわく因縁など何もないのだ。


 この前帰省した時、祠はまだ残っていた。その前を通ったときに、近くで遊んでいた少年に祠の玉のことを聞いてみた。

 ──竜神様の持ち物だという。

 龍のぎょくに昇華してしまった。

 あと数十年かすれば、由来など知る人はいなくなる。好き勝手な効能来歴が語られることだろう。


 いい加減なものが残り続けて、にぎやかせ続けることこそが歴史というものなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る