74.ぐるりの坂
今年になって初めて
私は近所の坂を上っていた。
どこにでもあるような何の
磁場のせいか坂道錯視か、三半規管がおかしくなって
頭がぐるりと回されるような感覚だから、<ぐるりの坂>と昔から云われている坂なのだ。
ただ私は平衡感覚が良いのか、一度も眩暈を起こしたことはなかった。
坂を歩いていると、道の前を
ふと空を仰ぐ。
鳥の動きと音に、興味が引かれたのだ。
雲一つない天にそれは現れた。
巨大な腕だった。爪は長く毛むくじゃらで筋肉質だ。腕は見る間に大きくなり、私の頭をがっしりと掴み、ぐっと
筋を違えてはたまらないから、逆らわずに私は体を回した。
ぐるりと一回転すると、頭の芯がふらついた。立っていられず、思わずしゃがみ込む。
初めて経験する眩暈にしばらく静かに息を整えていた。
いつの間にか巨大な腕は消えていた。
ああ、なるほど。わざわざ<ぐるり坂>という名前が残っているのは、そういうことか。
物理的に頭を回転させられていたわけだ。
妙に
あの鬼のような毛むくじゃらの腕が、本当に鬼なのかは知らぬ。狐か
額にうっすらと汗がにじむ。蝉の声に交じって
今年も暑い夏になりそうだ。私は歩き続けた。
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