日暮れ後

 もう日が落ちてしまった後だった。

 ふだんなら夜でも怖くはないのだけれど、あの事件──僕と同い年の子が連れ去られて殺されてしまった、という出来事があってから、なにかという感覚が頭から離れない。

 犯人はもう捕まっているから、というのはあまり助けにはならなかった。ということが日常の水面に浮かび上がってしまった。それが怖い。

「きみ、こんな時間に一人で危ないぞ」

 びくっとして僕は振り向くと、男の人が立っていた。何か腕章みたいなものをつけている。見回りのおじさんかな。

「どこまでいくんだい。おじさんと一緒に行こう」

「二つ先の角を曲がってすぐです。友達と遊んでいたら遅くなってしまって」

「君は知っているかどうかわからないが、この前君のような子が誘拐されて──帰ってこなかったんだ。親御さんは心配しているだろう。私にはよくわかる」

「おじさんにも子供がいるの?」

「そうとだも。私がその──帰ってこなかった子の親なんだよ」

 僕の首にがっしりとした手がかかった。

「あの子一人じゃあまりにも寂しいじゃないか。頼む、あの子の友達になってくれ」

 僕の知らない、子供の笑い声が聞こえたような気がした。そして僕は気を失った。


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