転生の秘密

 私は死んだ……はずだった。


 ただ気がつくと壁も床も天井も真っ白で、扉は奥に一つだけの部屋。窓はない。

「ここは……?」

 おそらくは死後の世界ということだろう。人間は死んだら無になるのか? こうして『私』は存在している。つまり魂は存在するのだ。

 そんなことを考えていると、奥の扉が開いた。入ってきた人物は意外にも、背広を着た身なりのきちんとした中年の男性だ。

「はじめまして。私は案内人です。今回の人生はどうでしたか? まあ病気のせいで中途退場となったのは残念でしたが」

「失礼ですが、あなたは神様?」

「とんでもない。雲の上のお方とは違います、私は下っ端の案内人にすぎません。人類の一人一人に細かく指導するなんて、可能ではあっても時間がかかりすぎて無理でしょう。地域によって支部に別れて、統括がいてっていう感じです」

 なるほど。天使にも階級があると聞いたことがある。天上にも官僚組織が必要ということなのだな。

「多少の心残りはありますが、それが運命というなら仕方ないです。それで私はこれからどうなるんでしょうか?」

「あなたの魂は再生され、また現世へと生まれ変わることになります」

輪廻りんねする、ということですか?」

「そういうことです。ただ、知識や経験を持ち越すことはできません。それでは次の人生は<今回の人生の延長>ということになってしまいますので。転生はすべて公平でなくてはなりません」

「しかし日本では──親ガチャといって生まれの不公平を嘆く人も多いですが」

「確かに出発点での差異はあるでしょう。しかし、転生する魂の、という意味では公平です。もちろん、あなたにも十分チャンスはありますよ」

 それがルールというものだろう。私はうなずいた。

「さあ、準備はいいですか? では扉の外へ進んでください」

「わかりました」

 私はドアを開けた。何か奇妙な振動がある。目の前には巨大な機械が回転していた。

「これは……?」

 首だけひょっこりとこちらを覗いた案内人は、こともなげに言った。

ですよ。あなたの魂をいったん粉々にしてから新しい魂に再生します」

「なんだって!」

 自分がちぎれて消えるという恐怖。私はくるりと向きを変えて逃げようとした。しかし何かの強い力がどんどん引っ張っていく。不気味に回転する粉砕機の方へ。

「痛みはないですから。言ったでしょう。知識や経験、つまりを持ち越すことはできないと」

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