不幸な友人

 休日の午後、街をぶらぶら歩いていたら友人の田中に会った。

 表情が暗く、肩を落とした様子が痛々しい。

「どうしたんだ、落ち込んでるようだな」

「ああ、鹿島かしまか。靖子やすこはお前も知ってるだろ。さっき別れたんだ。どうもあいつ、浮気してたみたいで」

「お前に紹介されたときは、そんなことするような子には見えなかったけどなあ。あ、そうだ。これ」

 俺は鞄の中から田中の両腕を取り出した。

「さっき拾ってさ。手首のロレックス、見覚えあったから。ちょうど出会えてよかったよ」

「助かった。やっぱり腕がないと不便でさ」

 田中は自分の腕をくっつけて、俺の手を握った。

「やっぱり持つべきものは良き友だな。今から飲まないか。奢るぜ」

 田中の誘いに少し考える。靖子の浮気相手というのは俺で、腕のことも靖子から電話で聞いたのだが、そこらへんはバレていないらしい。

 俺は笑顔で答えた。

「喜んでつきあうよ。男同士、気兼ねなく飲もう」

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