人形の街

 平穏な街に一発の銃声が轟いた。


 彼は火薬の匂いの残る銃を片手に握りしめ、大通りに飛び出した。

 神経質なほどに周りを見回す。

「やあディック、いい天気だね。奥さんは元気かい?」

 歩いていた雑貨屋のゲイリーは彼に挨拶する。彼は迷いなく銃口をゲイリーの顔に向け、撃った。

 ゲイリーは穏やかな笑みを浮かべたまま、機能を止めた。静かに崩れ落ちる。額に丸く空いた穴は黒くすすけているだけで、血は一滴も流れてこない。

「こいつも人形……」

 彼は呟く。

 銃声が響いたのに、誰も驚いていない。

 駆け寄ろうとも、逆に逃げ出そうとも、しゃがみこんで身を隠そうとも、しない。

 飼い犬を散歩させているジェーン婆さんも、学校帰りか自転車に乗っているイアンとボブも。平然とそれぞれの役を続けている。

 まるでそれ以外はプログラムされてなどいないように。


 彼は通りにいる動いているものを、片っ端から撃った。

 それは虐殺なのだろうか? 人間のふりをしているアンドロイドを壊すことは?

「どいつもこいつも、カラスでさえ偽物」


 弾が残り一発になった。

 最後に銃口をくわえ、彼は引き金を引いた。絶命する瞬間、彼は自身の飛び散る真っ赤な血を見て安心した。

──俺は人形じゃ、ない。人間だ……。




「……やはり死んでしまった。彼自身の記憶情報から元の環境を再現したというのに、人間というやつを長生きさせるのは難しいな」

 残念そうに宇宙人は観察記録の画面を閉じる。


 

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