猫が死者に寄り添う理由 (Not意味怖)
よく晴れた日の朝、僕は洗濯物をベランダに干し終えた。
妻はリビングでポテトチップスをかじりながらテレビを見ている。
「ねえ、熊に言葉で言い聞かせることって、できると思う?」
そういえば、熊関連のニュースが最近多い。たいていは里に下りてきて人に怪我をさせたってパターンだ。
「よほど小さい頃から人間に慣らさないとダメだろうね。それに動物って自分の方が強いとわかると高圧的になるからなあ。あのムツゴロウさんでさえ、ヒグマがあまりに言うこときかなくて本気で棒で殴り殺そうとしたって話だし。その時は幸い言うことを聞くようになったらしいけど」
「やっぱり難しいのかなあ」
「人間は動物を擬人化して見ちゃうところがあるから。動物に友情や信頼なんて理解できないし、家族という概念もあるかどうか」
「子育てをする以上、家族はわかってるんじゃない?」
「どうかな。母と子、はあるだろうけど、それ以上は判らない。それも巣立ちするまでだ」
「身も蓋もない意見ね」
妻がコーヒーを入れてくれた。僕は一口すすって味わった。猫舌なのだ。
「熊はともかく家畜化されてかなり長い犬や猫だけれど、飼い主が死んだ後に首や顔をかじって食べた件も多い」
「置き餌がなくなったせいじゃないの?」
「たいていのケースでまだ皿に残ってたらしいよ。親愛のしるしとして顔を舐める子は多いけど、どのタイミングで<肉>に変わるんだろう。興味はあるな」
「そういえば親戚が亡くなった時、遺体に猫を近づけるなって言われたことがあるわ」
「墓場から死骸を持ち去って喰う火車という妖怪は、猫だとされることが多い。また猫又が死者を操るっていう伝説もある。たぶん昔から、死体に猫が寄ってくることが多かったんだろうね」
「猫って可愛さに加えてそういう妖しいところ、<魔>を感じさせるところも魅力なのかも」
「それはあるだろうな。黒猫は魔女の使いだし。しかもどうやら猫は人が死ぬ時期がわかるようだ」
「ほんと?」
「アメリカのある老人施設でペットセラピーとして引き取られたオスカーという猫。そいつが近くで丸くなっていた人は、きまって数日後に死んだそうだよ。あまりにそういうことが続くので、新しい規則が出来たそうだ」
「オスカーが来たら追い払うとか?」
「いや。『オスカーが入居者のそばで寝ていたら死期が迫った可能性があるので、その入居者の家族に連絡すること』というルール」
僕は妻のポテトチップスを一枚拝借した。
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