下校時の道

 あれはあたしが小学校に入ったくらいの頃かな。交通事故防止に目立つからって黄色い帽子を被せられて。あたしにもそういう可愛かった時期があるわけよ。

 ある日の帰りに、黒猫がかれてた。まだぺっちゃんこっていう訳でもないし、存在感のある死体があったの。

 親が絶対飼うのがNGだったからさ、猫にすごい憧れがあったのね。そこに置いておいたら車にまた轢かれるから、かわいそうじゃない。

 ちょっとずらしてあげたいなって考えてさ。たまたま古新聞が捨ててあって。

 さすがに直接触るのは嫌だったから、新聞をスコップがわりにして。そーっと動かそうと思ったんだ。

 猫の死体の下に新聞紙を差し込んで、ゆっくり引いたのね。


 まだつやの残る黒い毛皮がね、ずるっと動いたの。

 その下にはびっしりと白いうじが覆ってて。なんか別の生きものみたいに波打ってた。

 当然あたしはギャーっと叫んでさ、全部放り出して逃げ帰ったんだ。やっと着いた、と思って家のドアを開けたらね。

「みゃあ」って。猫の鳴き声が。


 小さい赤ちゃん猫が家にいたんだ。

「え? パパが猫アレルギーなんじゃなかったの?」

「パパの勘違いだったのよ。昔からそう信じてたんだけど、検査してもらったら違ったんだって。猫ずっと欲しがってたでしょう」


 うん、たぶん偶然なんだよ。あたしが猫の死体を見たことと、ママが子猫をもらってきたことは。

 でも、やっぱりね。

 ちょっと怖かったんだ。


 でもそれから十年、その子は今では立派な婆さんのおでぶ猫になってるよ。




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