晩ごはん

 あーあ。

 学校から帰ってきて家のドアを開けた瞬間、惨状が見えた。

 廊下の壁に穴が開いてるわ、物は散乱してるわ。

 眼鏡めがねを直しつつ、私は顔をしかめる。

 アル中のクソ親父が来たのだ、とすぐに分かった。

 離婚したあと、母と私は違う街に引っ越したのに。よく住所を探し当てたものだ。


 すぐに殴る男だった。暴力しか取り柄がないのかと思うくらい。実際そうだったのだろう。それに母がパートで稼いだ金さえ盗っていってしまう。

 母が何度泣いているのを見たことか。


 静かなのでクソ親父はもう帰ったのかと思い、私は風呂場に入った。拭き掃除のためのバケツに水をもうとしたのだ。シャンプーとリンスが倒れてしまっている。意外にもクソ親父は風呂桶の中にまだいた。

 私は見たくもないので、風呂場を出て母の姿を探す。

 怪我をしてなければいいけど。

 母は台所で包丁をどん、どん、と叩き付けるように肉を切っていた。かなり固そうだ。

 私に気づくと、母は少し焦点の合っていない眼を私の方に向けて、笑った。

「あら香澄かすみ。今日のご飯はパパかつよ」


 んー、ちょっとその言葉は違うような気がするけど……違わないのかな?


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