穴が開く

 腕がひどくかゆい。

 そのせいで目が覚めてしまった。キヨシはベッドの上でスマホを触る。朝の四時。

 最近暑さがようやくおさまってきたと思ったら、今度は蚊が出てきたようだ。

 痒い腕を目の前に持ってくる。おかしいな、赤く腫れてはいない。

 それにこんなところに黒子ほくろがあったか?

 いや、違う。

 それは小さな、直径三ミリほどの穴だった。

 なんだこれは、と思ったキヨシは触って確かめてみる。黒くて肉が見えているわけではないが、触るとへこんだ感触が確かにある。

 錯覚ではなく、物理的な現象だとわかったキヨシは水で洗ってみようと思った。

 とにかく痒い。冷やせば多少はおさまるだろう。

 洗面台に言った俺は。あっけにとられた。

 

 最初にあった穴の周囲に六個、新しい穴が開いていた。痒みも強くなり、掻きむしりたいぐらいだ。

 足も痒い。背中も痒い。

 視界に黒い点が見えた。

 見る間に点が増えてゆく。

 眼球に穴が開いているのだ。

 なんだこれは。

 キヨシは立っていられず、床に倒れる。体がまともに機能しない。まるで脳に穴が開いたように。

 最終的には穴と穴が融合し、大きな穴にキヨシの残りの身体が引きこまれていった。


 あとには一切、何も残らなかった。

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