マンホールの蓋
「君はこの道のマンホールの
男は背後から、唐突に声をかけてきた。
俺が夜道を一人で歩いていた時だ。眉月が薄い光を投げかけている。
反射的に振り返って男を見る。
こいつ何言ってんだ。
「ないよ、そんなの」
「普通誰も気にしない。それも当然のことだ」
その男は呟いた。その冷めた絶望が妙に気になった。
「マンホールの数がなんだって?」
「いくつある?」
俺はざっと見渡し、街灯を頼りに道路を眺める。
「二つ」
「そうだな。気の向いた時でいい、昼間にもう一度数えてほしいんだ。その時、本当に二個だったかを」
「つまりあんたはこう言いたいんだ。マンホールの数が増えたり減ったりしている、と?」
俺は男の両手が小刻みに震えているのを見た。男はたぶんアル中だ。
「君には信じられないかもしれないな。私は昔、下水道管理をしていてね。道を歩いているとマンホールを数える癖がついてるんだ。そこである日、妙なことに気づいた。昨日には無かったマンホールがあることにね」
「なるほど……妙な話だな」
「マンホールに擬態した何か、がいるんだ。生物か無生物かも判らないが、何かいることには違いない。何故それに誰も気づかないんだ?」
「そりゃあもちろん──」
俺はその男を撃ち殺した。
「余計なことをいう奴を排除する役目がいるからだよ」
俺は大顎を変形させ、男の死体を喰い始めた。
マンホールの蓋に擬態できるのに、人間には擬態できないとこいつはなぜ思ったんだろう?
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