白い女
ひさしぶりー。元気してた?
ねえ聞いて聞いて。バズってる動画が回ってきたんだ。深夜で山中の道路、白い服の女が立ってるドラレコのさあ。
すっごく思い当たるフシがあるんだよね。実はねー、それあたしなんだわ。
先週元カレと山の奥のラブホに行ったのね。それでシャワー浴びようと思ったら、水道管からびしゃあって噴水みたいに水漏れして。なんだコレってホテルの人呼んだらさ、夜で修理できないし、他の部屋も開いてないしで返金してもらって出てきたのよ。
元カレはヤれなかったからイライラしてるしさ、帰りの車の中で大ゲンカしちゃったの。あたしもカーっとくるタチだから、勢いで『降ろして! 歩いて帰る!!』って言ったんだ。
そしたらさ、アイツ『ああ、さっさと降りろクズ女』ってほんとに降ろしやがったのよ。信じらんないよね。
あの道路って夜は車もあんまし通らないじゃない? こりゃタクシーでも呼ぶしかないかって思ったんだけど、スマホ元カレの車の中に置き忘れてて。涙ぐんで立ってたんだよね。
その時にドラレコ撮られたんだと思う。
それからどうしたって? もう歩いて下りるしかないじゃん。
数分歩いたかな、クラクションがプッと鳴ってさ。振り返ると空車のタクシーが停まってたのね。『どうしたの。てっきり幽霊が出たと思ったよ』って笑う白髪のおじいさん運転手でさ。事情を話して乗せてもらうことにしたんだ。
フツーさ、そんなの通り過ぎるでしょ。手も上げてないんだよ。それでもその運転手さんは察してくれたんだよね。
駅まで送ってもらってさ。そこからは歩いてすぐだから。
元カレとはそれで終わりよ。スマホ取り返して、それっきり。
そんでね、この話には続きがあんのよ。
タクシーってさ、運転手の名前が貼ってあるじゃない? それで名前を憶えてて。
お礼言っておこうと思ってタクシー会社に電話してさ。〇〇さんいらっしゃいますか、この間本当に親切にしていただきまして、って言ったらなんか無言で。
ん? と思うじゃん。『本当に〇〇でしたか?』なんていうからムッときてさ、白髪で60歳ぐらいの穏やかな人で──って説明したんよ。
『〇〇は去年亡くなっております』って言うのよ。
はぁ? でしょ。『いや、タクシーに乗ったんですけど』って返したら『彼はとても真面目で優しい人でした。亡くなった後も人助けをしてるんですね』だって。
ねえ、あたしさ、幽霊に送ってもらったのかな? あ、ビール追加ね。
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