自動車事故 (Not 意味怖)
彼は自動車が大嫌いだった。
自分で運転するなんて全く考えられないことだし、家族や友人の運転でさえも同乗を断っていた。
なぜ嫌いなのか――それは彼自身でもわからなかった。
鉄の塊が高速で動いているというだけで身震いがしたし、人間がそれを完璧にコントロールできるはずはないと固く信じていた。
現に事故はいつもどこかで起きている。自分の番が牙を研いで待ち構えているのではないか――そんな思いがぬぐい切れなかったのである。
彼の場合はもう自動車嫌悪症とでも呼ぶべきなのかもしれなかった。
大きな通りではいつも歩道の建物すれすれを歩き、万一自動車が突っ込んできても避けられる体勢を取っていた。
むしろ車が入れないほど狭い路地に異常に詳しく、可能ならそういう道を選んで歩いた。その方が安心だから。
万事がそんな調子だったから、彼が自動車の事故で死んだと聞いたとき、友人たちはみんな驚いた。
その日たまたま立体駐車場の近くを通った時、出入りする車に気を取られ、彼は足を止めていた。いつものように周りを警戒しつつ。
ちょうどその瞬間、駐車場の上の階で運転を誤った奴がいた。勢いよく車止めを踏み越え、車ごと落下したのだった。彼が立っていたその場所に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます