21.人形蒐集家
「人形が怖い? 人が人形を恐ろしく感じるなら、我らが
人形コレクターの彼女は取材に来た男にそう言った。
「だから皆がなぜ、博愛をもってこの子たちに接しないのかわからないわ。このホラー漫画雑誌の表紙の子、実に愛らしい表情だと思いません?」
人形で埋め尽くされた部屋。ガラスのような箱に入ってない、棚板にただ座らせたような、人形たち。
男はかなりの圧を感じる。
「人形には魂が宿る、と昔から言いますね」
彼女は不思議そうに首をかしげる。
「そんなのあたりまえじゃないの。私たちにだって魂はあるのだから、むしろ入っていなくてはおかしいわ。もちろん大量生産された安物は別として。愛し愛されたものには魂が宿る。それこそが人形というものよ」
彼女は微笑む。背後から
男はぞわっとした──恐怖に近い──感情を憶えた。
彼女に賛同するように、人形たちが揺れ出したのだ。壁にみっしりと並べられた人形たちが。
男は声を上げて立ち上がり、逃げようとした。しかし、続く彼女の言葉が思いとどまらせる。
「
男は恐る恐る、指先を板に触れる。彼女がリモコンのスイッチを入れると、わずかに振動が感じられた。
「静音性のモーターが仕込んであるの。スイッチを入れるとカタカタ揺れる、それだけよ。人形が横を向いたり位置がずれたりというのは家の振動を拾っただけ、ということが多いわ」
彼女は話を続ける。
「日本人形の髪が伸びる、という話があるわよね。あれも髪は一本ずつ植えてあるんじゃなくて、長い一本をU字型に折って二本分にしているのね。手間が半分になるでしょう? もちろん裏で止めているのだけれど、古くなると緩んで片方の端が長くなる、という訳」
「本気で驚いたじゃないですか。お人が悪い」
男の嫌味に、彼女は微笑んだ。
「だから謝っているじゃない。要するに人の側の思い込み。私は人形が怖いものだなんて話を広めてほしくないだけなの」
男が帰ると、彼女はリモコンをテーブルに置いた。
「これであんまり変なことは書かないでしょう。安心してね、子供たち」
人形たちは静かに揺れた。
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