バズる動画

 慶介は準備運動を終え、カメラを構える純一に合図を送った。

 スポーツパルクールの選手である慶介は、もっと名を売るため、パフォーマンスとして動画を撮ることにしたのである。

「でもやっぱりさ、廃工場をコースにするのはまずいんじゃないの」

 晴香が──慶介の彼女である──不安そうな顔をする。一応リハーサルをして屋根の強度などを確かめてあるし、それほど難度の高いコース設定ではないが、やはり心配なのだろう。

「大丈夫だ。俺を信頼しろよ」

 慶介自身につけたウェアラブルカメラと、広角を押さえる純一のカメラで、迫力のある映像が撮れるはずだ。

 純一が手をぐるぐる回す。慶介も右手を挙げ、カウントダウンを始める。スタート。地面を蹴り、窓にとりつき、腕力で身体を屋根の上に持ち上げる。順調だ。

 アクションを決めつつ屋根の端に来た。高所からの大ジャンプが一番の見せ場だ。

 踏み込んだ足が、不意にずるりと滑った。リハーサルには無かった、濡れた黒いようなもの……油?

 慶介は屋根の端から6メートル程、崩れた態勢のまま頭から落下した。


「……死んだか?」

「どうだか。ぴくりとも動かないのは確か」

「なんだ冷たいな。彼女なんだろ」

「あたしより体を鍛えることの方が大事なんだもん。そのくせ束縛してくるし」

 純一は慶介の身体のカメラを取った。そして晴香とキスする。

「この動画、絶対バズるぜ。なんせ本物の死亡事故動画。成仏しろよ慶介、俺がちゃんと編集してやるからな」

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