22.バズる動画
慶介は準備運動を終え、カメラを構える純一に合図を送った。
スポーツパルクールの選手である慶介は、もっと名を売るため、パフォーマンスとして動画を撮ることにしたのである。
「でもやっぱりさ、廃工場をコースにするのはまずいんじゃないの」
晴香が──慶介の彼女である──不安そうな顔をする。一応リハーサルをして屋根の強度などを確かめてあるし、それほど難度の高いコース設定ではないが、やはり心配なのだろう。
「大丈夫だ。俺を信頼しろよ」
慶介自身につけたウェアラブルカメラと、広角を押さえる純一のカメラで、迫力のある映像が撮れるはずだ。
純一が手をぐるぐる回す。慶介も右手を挙げ、カウントダウンを始める。スタート。地面を蹴り、窓にとりつき、腕力で身体を屋根の上に持ち上げる。順調だ。
アクションを決めつつ屋根の端に来た。高所からの大ジャンプが一番の見せ場だ。
踏み込んだ足が、不意にずるりと滑った。リハーサルには無かった、濡れた黒いようなもの……油?
慶介は屋根の端から6メートル程、崩れた態勢のまま頭から落下した。
「……死んだか?」
「どうだか。ぴくりとも動かないのは確か」
「なんだ冷たいな。彼女なんだろ」
「あたしより体を鍛えることの方が大事なんだもん。そのくせ束縛してくるし」
純一は慶介の身体のカメラを取った。そして晴香とキスする。
「この動画、絶対バズるぜ。なんせ本物の死亡事故動画。成仏しろよ慶介、俺がちゃんと編集してやるからな」
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