怖い出来事   (Not 意味怖)

 あーあ、どうしてこんな時に熱が出ちゃうんだろ。そこまで高くはないからコロナではないだろうけど、万が一ということもある。仲間に絶対うつしたくないし。

 あたしは冷却ジェルを額に貼り付けてベッドに倒れこむ。

 しばらくして、どーん。下っ腹に響く花火の音。せっかくの夏だもん、先輩と見に行きたかったなあ……。

 何年かぶりの花火大会。お母さんが用意してくれた浴衣ゆかたが壁にかかっている。

 はあ、と何度目かのため息。何もする気にならず、横になったまま眼を閉じる。


 なんか浮遊感が心地いい。


 目を開けると、すぐ目の前に天井があった。近い近い。あれ? あたし、

 下を見ると、ベッドに寝ている。待て。これは──幽体離脱?

 正直に言おう。あたしはハイになってた。いや物理的な位置のことじゃなくて。たぶん熱のせい。

 どーんどーんと、連続して花火の音。見に、行っちゃおうか?

 あたしは壁をすり抜け、家の外へ飛び出す。


 花火の見物客は大勢いるけど、あたしに気づく人はいない。うーん、生霊ってやつなのかな、いま。

 ピーターパンみたいに夜空を飛んでいく。二丁目のジョンに吠えられた以外は特に問題なく、あたしは秘密の夜間飛行を楽しんでいた。バックには大きく落ちる枝垂しだれ柳が光る。土星みたいな形の新しめの花火。

 そして大きく開く三尺玉。

 もうゼッコーチョーの気分のときに、うちわ片手に歩く先輩を見つけた。

 あたしは大きく手を振る。どうせ見えないだろうけど。

 と、先輩は花火よりも宙に浮かぶあたしの方を見て、何とも言えない奇妙な顔をした。

 あたしのこと見えてた?! そういえば先輩、霊感強いって言ってたっけ。

 なんとなくにやけながら家に帰った。


 自分が寝ている姿を見るのは実に奇妙だ。と、そこで重大なことに気がつく。

 やべえ。さっき暑すぎるから、パジャマ脱いでたんだった。今までノーブラタンクトップ&おパンツで外を飛びまわってたことに……。

 あたしはベッドから飛び起きた。肉体に戻ったのだ。

 真っ赤になればいいのか、真っ青になればいいのか。

 マジでこの夏、一番怖い出来事だった。

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