20.怖い出来事
あーあ、どうしてこんな時に熱が出ちゃうんだろ。そこまで高くはないからコロナではないだろうけど、万が一ということもある。仲間に絶対うつしたくないし。
あたしは冷却ジェルを額に貼り付けてベッドに倒れこむ。
しばらくして、どーん。下っ腹に響く花火の音。せっかくの夏だもん、先輩と見に行きたかったなあ……。
何年かぶりの花火大会。お母さんが用意してくれた
はあ、と何度目かのため息。何もする気にならず、横になったまま眼を閉じる。
なんか浮遊感が心地いい。
目を開けると、すぐ目の前に天井があった。近い近い。あれ? あたし、浮いてる?
下を見ると、ベッドに寝ているあたし。待て。これは──幽体離脱?
正直に言おう。あたしはハイになってた。いや物理的な位置のことじゃなくて。たぶん熱のせい。
どーんどーんと、連続して花火の音。見に、行っちゃおうか?
あたしは壁をすり抜け、家の外へ飛び出す。
花火の見物客は大勢いるけど、あたしに気づく人はいない。うーん、生霊ってやつなのかな、いま。
ピーターパンみたいに夜空を飛んでいく。二丁目のジョンに吠えられた以外は特に問題なく、あたしは秘密の夜間飛行を楽しんでいた。バックには大きく落ちる
そして大きく開く三尺玉。
もうゼッコーチョーの気分のときに、うちわ片手に歩く先輩を見つけた。
あたしは大きく手を振る。どうせ見えないだろうけど。
と、先輩は花火よりも宙に浮かぶあたしの方を見て、何とも言えない奇妙な顔をした。
あたしのこと見えてた?! そういえば先輩、霊感強いって言ってたっけ。
なんとなくにやけながら家に帰った。
自分が寝ている姿を見るのは実に奇妙だ。と、そこで重大なことに気がつく。
やべえ。さっき暑すぎるから、パジャマ脱いでたんだった。今までノーブラタンクトップ&おパンツで外を飛びまわってたことに……。
あたしはベッドから飛び起きた。肉体に戻ったのだ。
真っ赤になればいいのか、真っ青になればいいのか。
マジでこの夏、一番怖い出来事だった。
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