異物

 離婚して独りになった友人の家に遊びに行った。


 意外にもあまり落ち込んでいない様子で、くだらない話で盛り上がった。

「晩飯喰ってくだろ。自分で釣った魚が冷蔵庫にまだたくさんあるんだ」

「ああ、ここ海が近いもんな。お前まだ釣りやってんの」

「現役バリバリだぜ。ちょっと前、よく釣れるいい場所見つけたんだよ。俺だけの秘密だけどな」

「わかった、ご馳走になろう」

「ビールでも飲んで待ってな。すぐできるから」

 彼は台所へ行って料理を始めた。油で揚げる音といい匂いが空腹に効いてくる。

 しばらくして、魚の姿揚げが出てきた。これをポン酢で食うらしい。

「うまそう……。これ何の魚?」

「カサゴだよ。日本酒に合うんだぜ。ちょっと待ってな、確かいい酒が……」

 彼は酒を探しに別の部屋に行ってしまった。俺は匂いの魔力に耐え切れず、出された分の魚に手を付ける。

 うまい。

 思わず二口三口と食べ進むと、がりっと硬いものを噛んだ。

 取り出してみると、指輪だった。

「おーい、コップでいいよな?」

 日本酒の瓶とコップを持って彼が戻ってきた。

 俺はとっさにポケットの中に指輪を隠す。

「どうかしたか?」

「いや、なんか骨が刺さったかなと思ったんだが──取れたよ、大丈夫だ」

「そうか。じゃ飲もうぜ」

「おう」

 俺たちはひととおり談笑した。

 駅まで送るよ、という彼に悪いからと断って、彼の家で別れた。


 釣りのことは知らないが、料理のことならわかる。

 下処理でエラや内臓を取って水洗いするから、指輪なんか入っていれば絶対に判るはずだ。

 なぜ彼は気づかなかった? もしかしたら、が俺にサインを送ったのか?

 家に帰ったら指輪の裏のイニシャルを確認してみよう。

 一つ嫌な想像が頭の中をよぎった。

 よく釣れる場所──っていうのは、ぶつ切りの餌が大量に捨てられたせいで魚が集まったんじゃないのか。


 満月。潮の香りはプランクトンの死骸からくるという。その匂いを鼻に感じながら、誰ひとり存在しない道を歩く。


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