土の改良

「ふーん、肥料にはカルシウムも大事なのね」

 私は農業の本をパラパラ眺めながら呟く。

 お兄ちゃんと田舎の山奥に越してきてからしばらくたつ。

 少し前、両親が事故で亡くなった。私は高校を卒業した後、無職引きこもりのお兄ちゃんを連れて格安家賃の一軒家を借りた。広い昔ながらの家だ。裏は山になっていて、小さな燃えるゴミ用の焼却炉がついている。まだほんのりと温かい。

 ここで私は野菜作りに目覚めた。最初は知識もろくになく、虫食いだらけの小さい野菜しかできなかった。隣のお婆ちゃんが世話好きで、いろいろなコツを教わった。

「〇〇ちゃん、いるかねー」

「あ、お婆ちゃん。こっちの畑だよー」

 噂をすれば何とやら。私の野菜作りの先生、隣のお婆ちゃんがやってきた。手に枝豆の束を持っている。

「あんまり酒は飲まねえかもしんねえけど、茹でて食ってくれ。今年はいい出来だ」

「いつもすいません、もらってばっかりで。そうそう、お茶出します」

「いいよ、いいよぉ。しっかしおたくのお兄さん、ちっとも外に出ねえなあ。引っ越しに来た日しか顔見てねえわ」

「はは。気長に待ちます」

「〇〇ちゃんはいい子だねぇ。親戚に独身の男いるんだけど、どうだね」

「あー、今のところ結婚は考えてないんで」

「はっはぁ。暑いから体には気ぃつけてな」

 お婆ちゃんは帰っていき、私は一人になった。

 白い肥料を土に混ぜ込み、額に流れた汗をぬぐう。

「お兄ちゃん、私にこんなに手を焼かせるなんて。骨折り損にはならなかったからまあいいけど」

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