ママ友

「あきらちゃん。あんまり遠くまで行っては駄目よ」

 日傘をさした夏美さんは、子供に愛おしげな声をかける。娘を連れて公園に来た私は、彼女に会釈した。

 引っ越してきた私に、最近できたママ友。公園で子供を遊ばせている姿をよく見る。

 私の娘、さつきは人見知りが強く、あまり私から離れようとしない。それに比べれば、あきらちゃんはとても活発な男の子だ。

「うらやましいです、あきらちゃんはいつも元気で。娘にも見習ってほしいくらい」

 私がつい愚痴ると夏美さんは優しく微笑んだ。たぶん育ちもいいんだろうと思える仕草。

「あら、さつきちゃんもとても可愛らしいじゃない。あきらちゃんはこの前、虫を追いかけて森の中を駆け回って擦り傷だらけになりましたの。どうして子供って、あんなに昆虫が好きなんでしょうね」

 容易にその姿を想像できて、私は少し笑った。

 夏美さんの家にお茶を誘われたこともある。そのときはあきらちゃんは友達と遊びに行っていたそうで見かけなかったが、ちゃんと整頓されていた綺麗な家だった。


 数日後、有名な菓子店のクッキーをもらったので夏美さんにもおすそ分けしようと公園へ行った。

 その時は夏美さんの姿を見なかった。あきらちゃんは数人でサッカーボールを蹴りあって遊んでいたので、彼に届けてもらおうと私は思った。

「あきらちゃーん、ちょっと」

 友達に断ってから彼はやってきた。

「なに?」

「夏美さんにはいつも世話になっているから。これお菓子なんだけど、ママに渡して」

 彼は奇妙な顔をした。

「あの人はママじゃないよ。うちの隣に住んでる人。ママが仕事でいないときに遊んでくれるんだ。すこしうざったいけど、お菓子買ってくれるからね。それとか、ぼく好きだよ」

 <あきらちゃん>は私の持つお菓子の包装を見て、そう言った。

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