第62話 アマン山脈を目指す(5)

 ホーホーとフクロウらしき鳥の鳴き声や、虫の音がリンリンと聞こえます。木々の隙間から見える夜空からは数多の星がキラキラ光っています。

 魔物が生息する森の中とは思えないほど、静かな場所です。

 あれから私たちはなんとか白虎から逃げることができた……と思ったんですが。


『なぁなぁ、お前、名前はなんていうんだ?』


 白虎が偉そうに私の名前を聞いてきます。

 そう、結局、コイツに追いつかれてしまったのです。


 風魔法で道を作って逃げたのはいいものの、完全に日が落ちる前に少し離れたところに野営のためにテントを張ったまではよかったのです。

 追いつかれる前に、結界の魔道具を挿すことは出来ましたが、問題の白虎に見つけられて、結界の周りをグルグルと回られている状況です。

 双子たちはテントの中に入ってもらっていますが、ダーウィは中にいれてあげられません。白虎の威圧が怖いのか、ブルブル震えているので、私はインベントリに何かないか探しているところです。


『名前!』

「……」


 いったいなんだって、こんな煩い白虎を母は相手にしたのでしょうか。


『おい、聞こえないのかよ』


 ドンドンドンッ


 偉そうに言いながら、結界を前足で叩いています。

 私が見上げるくらいの大きな白虎で、会話もできるとなると、Aランク、下手するとSランク相当の魔物でしょう。 『フロリンダ』時代に買った魔道具ではあるものの、魔道具職人のドワーフのゲイルが作ったものではないので、少しだけ結界の強度が心配です。

 こいつが本気で攻撃してきたら、簡単に破壊されてしまうかもしれません。

 私は大きくため息をついた後、白虎のほうへと目を向けます。


「なんで、あなたに私の名前を教えなくちゃならないの?」

『だって、ミリアの娘なんだろ?』

「ええ、そうね。あなたの知っているミリアと同じかはわからないけど」

『絶対、俺のミリアだ!』


 吠えるように叫ぶ白虎に、ダーウィは両足の力が抜けてしゃがみこんでしまいました。


「ダーウィ! ちょっと、あんた!弱いモノ苛めしないでよっ!」

『よ、弱いモノ苛めだとっ! 俺はそんなっ』

「してるわよ! 可哀想に。ダーウィ、もう少し我慢してね」


 私は必死にインベントリを探して、ようやくコレだと思うものを見つけました。

 

「はい、これ、これの中に入ってて!」


 インベントリから取り出したのは、簡易厩舎です。いつ手に入れた物かは思い出せませんけど、1頭しか入らないしちょっとボロいですが、白虎の見えるところにいるよりは、大分マシでしょう。

 これに防音の魔法陣の紙を貼りつけてあげれば、白虎の声は聞こえないはずです。

 身体強化でしゃがみこんでいるダーウィを抱えあげて、簡易厩舎に入れてあげます。


 ――これに魔法陣を貼って。


 この防音の魔法陣の紙は、『フロリンダ』時代、弟子にしてほしいと頼みに来た人族の女の子に課題で出していたもので、今の私のMPでは描けない代物です。

 これで、ダーウィも静かに休めるでしょう。


「……さて」


 私は黙り込んでいた白虎の方へと、じろりと目を向けます。

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