第57話 ハーブチンキを作る(2)

 ようやく庭に入ってみると、雑草でぼうぼうになっています。


 ――うわ、こんな中で薬草やハーブ、見つけられるかな。


 おばあさんから借りた草刈り鎌で、ザックザックと雑草を刈っていきます。しかし、すぐに切れ味が悪くなってしまいました。

 私は一瞬、風魔法の『ウィンドカッター』が頭をよぎりました。

 しかし、攻撃魔法は一度も使っていないので、どれくらいの威力になるのか、予想がつきません。

 雑草が鬱蒼と茂ってはいますが、下手に威力があって、生垣の『ローズマリー』まで切ってしまったら厄介です。


 ――攻撃魔法は森に入ってからにしよう。


 魔法がダメなら、やっぱり地道に草刈りをするしかありません。


「……あ、そうだ」


 私はふと、昔、ダンジョンの宝箱の中にあったモノを思い出したので、インベントリの中を探してみました。


「……あった」


 出てきたのは草刈り鎌の魔道具。

 なんでこんなものが入ってるんだ、と当時のパーティメンバーが文句を言っていたのを思い出します(ちなみに、勇者たちのパーティではありません)。

 この草刈り鎌の魔道具、お手入れ不要でいくら使っても疲れないという優れモノです。しかし、当時の『フロリンダ』には使い道がなく、そのうちギルドに買い取りしてもらおうと思っていて、すっかり忘れていたモノでした。

 

「よーし、サックサックいくわよ~!」


 気合をいれて草刈りを始めて、1時間。

 さすが、薬師の庭です。雑草を刈っていくと、様々な薬草が見つかります。

 初級ポーションに使われるモギナはもちろん、中級ポーションのメイン素材のメメナまであります。

 ちなみにモギナは、冒険者になりたてのGランクの子供たちが受ける薬草採取の依頼に出てくるものです。(ちなみに、私もGランクです)

 しかし、メメナはもう少し上のランクの冒険者が依頼を受けるものなので、こんなところで採取できるとはラッキーです。


「それよりも……これって、『タイム』かしら」


 小さな葉がもっさりと固まっているのを『鑑定』してみると、『タイムン』と表示されました。これは熱さましの薬になるそうですが、私には『調薬』のスキルはありません。


 ――でも、ハーブチンキにしたら、何かに使えるかも?


 気になる薬草やハーブがどんどん出てきます。

 夢中になって刈っていくうちに、庭はすっかりきれいになっていました。




 宿の部屋に戻ってすぐに、刈ってきたローズマリーをテーブルの上にのせます。


「なんかいいにおい」


 先に部屋に戻ってきていたサリーが、鼻をひくひくさせています。

 たくさん採ってきたベリーは、すでにサリーの手によってドライフルーツに変えられていました。今はダニーがおばあさんのところにお裾分けにいっているようです。


「さて、これも『ドライ』で乾かして」


 ローズマリーを乾燥させてから、『クリーン』で綺麗になった瓶に、ドワーフの神酒『火精霊の恵み』と一緒にいれます。ローズマリーをしっかり浸かるくらいお酒をいれて、木の蓋をして、軽く振ります。

 これを毎日振ること、2週間。冷暗所で保存するのがいいので、テントの中にでも入れておきましょう(インベントリでは時間経過しないので)。

 同じようにタイムンもお酒にハーブチンキにしてみました。これの効能は、まだわからないので、こちらは様子をみるしかありません。

 私は宿の延長のお金を支払いにいくついでに、ハーブチンキを届けに、おばあさんのところにいくことにしました。

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