第58話 アマン山脈を目指す(1)

 コンスターリア村に来て3日目。

 なんとか天気が回復したので、私たちは山に向かうことにしました。

 早いうちから宿屋のおばあさんが、私たち3人に、お昼に食べられるようにとハムとチーズを挟んだ黒パンを用意してくれました。


「寂しくなるわねぇ」

「……」


 宿屋のおばあさんと、泊まっている間、一度も顔を合わせなかったおじいさんまで私たちを見送るために、宿屋から出てきてくれました。


「気を付けて行くんだよ」

「はい。お世話になりました」

「じゃーね」

「おばあちゃん、またね」

「ああ、また遊びにおいで」


 馬車はインベントリの中にしまってあります。


「ダニーとサリーは、ダーウィに乗って」

「はーい」

「はーい」


 すっかり若返ったダーウィは、双子を乗せても余裕です。

 私はダーウィの手綱を持ちながら小さく会釈をして、双子たちはおばあさんたちに手を振り続けました。


 本来、街道の最終地点なので、アマン山脈に向かう街道はありません。

 しかし、昔はこの村から隣国へ抜ける道があったと宿屋のおばあさんが昔語りとして話してくれました。

 今でも途中までは使われているそうで、村人たちが狩りや採集などで森に入る道の一つになっているそうです。

 これはチャンスだ、と思いました。

 元々は、自力で抜け道がないか探すつもりでしたが、途中まででも古い道があるのなら、それを使うほうが多少楽に隣国へ抜けられるんじゃないか、と思ったのです。


『わるいヤツにおわれてるの』

『捕まったら奴隷にされてしまいます』

『とちゅうまでおいかけてきてたんだ』

『できるだけ早く村から出ていかないと、追いつかれるかも』


 そう言って、私たち三人がかりで説得しました。

 最初のうちは、子供たちだけで大丈夫なのか、道は狭いのに馬車はどうするんだ、と聞かれましたが、私には探知のスキルがあることと、魔物除けの魔道具や、マジックバッグでしまえるからと、、しぶしぶながら宿屋のおばあさんから教えてもらえました。(ドライベリーやハーブチンキのおかげかもしれません)


 私たちはアマン山脈につながる森側の出口を出ると、すぐに踏み固められた道を見つけることができました。

 草や木が鬱蒼としているので、確かに馬車は無理でした。

 身体強化をしながら、ダーウィと一緒に進めたのは、1時間くらいでしょうか。目の前には高い雑草が生えていて、道の痕跡などわかりません。

 そして背後にはもう村の影も見えません。


「そろそろ、魔法を使ってみようか」

「まほう!」

「ロジータ姉ちゃん、どんなまほう?」

「フフフ、『ウィンドカッター』!」


 気合を入れて唱えると、大きな風の刃が勢いよく前方に飛んでいきます。


シュパパパパッ


「すごいっ!」

「さっすがー!」


 双子の声とともに、見事に草が刈られていく様子に、気分がよくなります。


ドサッ

ガサガサッ

ドシンッ、ドシンッ


「あ」


 木が数本倒れていきます。


ギャウンッ


「え」


 ……何かを倒したみたいです。

 私たちは急いで鳴き声のした方へと走ります。


「……これは、フォレストウルフ?」


 たどりついた先では、身体が横に真っ二つになっている狼の魔物が転がっていました。

 ちょっと、やり過ぎたみたいです。

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