第56話 ハーブチンキを作る(1)

 ジャムとドライベリーを作った翌日。

 雨は止んだのですが、朝から靄が濃くて村の外に出られません。仕方がないので今日もドライベリーでも作ろう、ということになり、双子はさっそく宿のおばあさんにベリーを採る許可をもらいに行ってしまいました。

 昨日も大量にベリーを頂いたのにと思うと、何かもう少しお返しできないか、と考えてしまいます。 

 

「そういえば、隣の空き家に、『ローズマリー』が植わっていたわね」


 街道最後の村だけに、過疎化も進んでいるそうです。隣の家は、薬師だった老夫婦が亡くなってからは誰も住んでいないとのことで、庭も凄いことになっているそうです。

 今ではこの村には薬師は住んでいないらしく、何かあったら隣村まで行くのだとか。


 ――他にも『ハーブ』があれば、何かできるんじゃない?


 私には調薬などの薬師のスキルはありませんが、『日本人』時代に趣味で『ハーブ』のことを少しだけ学んだことがあります。資格をとるほどではありませんでしたが、自分で簡単な化粧水や、ハーブオイルを作ったりしていました。


 ――今、私の手持ちのモノで何が作れるかしら。


 ハーブオイルは材料となる油が問題です。

 なにせ、『植物油』は高価で手に入りにくいのです。私が持っているのも獣脂で作られた油で、ニオイが強いので、せっかくの『ハーブ』の匂いのほうが負けるのが想像できます。


 ――だったら、『ハーブチンキ』だったら作れるかしら。


 インベントリの中身をチェックします。

 材料としては度数の高いお酒が必要となりますが、『フロリンダ』はそれほどお酒が強くはなかったので、在庫にあるかどうか……。


「あ、あった!」


 出てきたのはドワーフの神酒『火精霊の恵み』。瓶の大きさは『一升瓶』ほどあるでしょうか。

 なんでこんな物がと思っていると、不意に思い出しました。これは最後のダンジョン攻略だったライフォンダンジョンに向かう前に、魔道具職人のドワーフのゲイルが餞別にと、秘蔵の酒をくれたのでした。

 絶対私が飲めないのを知っていて渡してきたのです。

 たぶん、彼としては『無事に帰ってきて一緒に飲むぞ』という意図があったのでしょうが、残念ながら帰ることはできませんでした。


 ――どうせだったら、ここで使わせてもらっちゃおう。


 瓶の蓋となっている蝋を剥がし、木の栓を抜きます。


「うわっ、キッツ!」


 お酒の匂いに、くらりとしましたが、すぐに栓をします。

 これなら、『ハーブチンキ』が作れそうです。

 私は宿屋のおばあさんに、隣の家の『ローズマリー』や薬草を採ってもいいか聞きました。


「『ローズマリー』?」

「あ、えーと、生け垣になっている木のことです」

「あんなのが、何か使えるのかい?」

「はいっ!」

「まぁ、綺麗にしてくれるんだったら、死んだジョージたちも喜ぶさね」

「ありがとうございます!」


 おばあさんに許可を貰うと、さっそく隣の家のお庭にやってきました。

 しばらく手入れがされていなかったせいで、特に『ローズマリー』が私の背丈くらいまで育っていて、庭に入るのも一苦労です。ついでに、パッチンパッチンと枝を切っていきます。

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