第52話 街道を進む、分かれ道

 防音効果のおかげもあって、テントでは静かな夜を過ごせました。

 食事を終えて外に出てみると、気持ちのいい青い空が広がっています。


「ダーウィ、おまたせ」

「ほら、おいしいジーニスだよ」


 双子にダーウィの世話を任せている間に、テントを片づけて、結界の魔道具を抜いていきます。

 馬車の向こう側、他の冒険者パーティたちがいるほうを見ると、すでにいなくなっているパーティが1つ、残りもそろそろ出かける準備をしているようです。

 昨夜、声をかけてくれた女の冒険者のパーティも残っていて、ちょうど彼女と目があったので、小さく会釈だけして戻ります。


「ロジータ姉ちゃん、このまちではかいものしないの?」


 餌をやりおえたダニーが聞いてきます。

 本当なら買い物もしたいところですが、厄介そうな視線があっただけに、この町に長居はしたくありません。


「まだ食料も足りてるし、次の村でいいかなと思うんだ」

「そうか」

「ねぇ、ぎょしゃだいにのってもいい?」

「ごめんね。町を出たら乗せてあげる」

「わかった!」


 サリーは残念そうではありましたが、先に行ったダニーについて素直に馬車の中へと入っていきます。 


「窓から顔を出さないようにね」

「……わかった」


 私の声色で何かを察した双子は、顔を引き締めて頷きました。


 ――まったく、変なのに目をつけられたみたいね。


 残っていた冒険者パーティのうち、もう一つのほうからビシビシと嫌な視線が感じられて、ため息が出ます。しかし、そんなのを気にしていたら動けません。

 私は御者台に乗ると、馬車を西門の方へと向かわせました。


 元気いっぱいのダーウィと風の魔法のおかげで 、街道を軽快に馬車は走ります。

 町を出てしばらくは、後ろからついてくる馬がいましたが、途中から私たちのスピードについていけず、いつの間にか消えてしまいました。

 途中、王都や辺境伯領に向かう分かれ道がありましたが、私たちは予定通りにアマン山脈に向かう道に進みます。


「ダーウィ、もう少しいったら休憩しましょうね」


 ブルルルっ


 陽気に返事をするダーウィに、私も気持ちが軽くなります。

 休憩が終わったら、双子たちを御者台に乗せてあげてもいいかもしれません。


「その前に」


 私は馬車を少し先で止めると、分かれ道まで戻って轍の後を確認します。少し残っているような気がしたので、箒でササッと消しました。


「『ミスト』からの『ドライ』」


 ついでに生活魔法の『ミスト』と『ドライ』を使って、箒の跡も消せば完璧です。


「これで少しは時間稼ぎになればいいんだけど」


 ――あの手の奴らは執念深いって、相場が決まってるのよね。


 私は再び御者台に乗ると、休憩場所を目指して馬車を進めました。  


         *   *   *   *   *


 ロジータの馬車が分かれ道でアマン山脈の方へ進んで30分程経った頃、冒険者を乗せた馬が2頭、ちょうど分かれ道までやってきていた。

 一人は『黒き雷』のバッド。ロジータを狙っていた悪い奴だ。


「おいおいおい、本当にアレはミトスドンクなのかよ」

「チッ、全然追いつかねぇじゃねぇか」

「バッド、いい加減諦めろよ」

「くそ、あのメス猫め。奴隷にして売っぱらったら、相当な値段になったはずだぜ」

「まぁ、確かにな」

「どこかで休憩くらいはするだろ。追いかけるぞ」

「まだ行くのかよぉ」


 一緒にいた男のほうは、いい加減にしてほしいと思っているが、頭に血が上っているバッドを放っておくわけにもいかなかった。

 二股の分かれ道で、普通に向かうのは辺境伯領の道。反対の道は寂れた村しか残っていない。

 

「ハイッ」


 バッドたちは当然のように辺境伯領に馬を走らせるのであった。

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