第53話 街道の最後の村と甘いベリー

 クツベスの町を出て3日目になりました。

 私たちはコンスータリアと言われる小さな村までやってきました。ここが街道の最終地点であり、この先はアマン山脈に広がる大きな森が広がっています。

 本来ならこのまま森に入り、山越えを目指したいところだったのですが、運の悪いことに天気が崩れてしまって村を出るに出られなくなってしまいました。

 この国で最後の村ということもあり、宿屋があったのでせっかくならと泊まったのです。

 滅多に旅人が来ない村だけに、宿屋といっても客室が3部屋くらいしかない、小さな宿屋です。実際、今もお客さんは私たちだけしかいません。


 ――早く止まないかな。


 私は宿屋の窓から外を見ています。雨の勢いは変わりません。

 ダニーとサリーは、ベッドの上で『座禅』を組んでいます。私が覚えていた精神統一する方法の一つだったのを、身体の魔力をコントロールするのに応用していたのを、双子も真似をしだしたのです。

 双子が使う魔力の方向性は違いますが、コントロールするという点では共通しているようです。

 

 コンコンコンッ


『ロジータちゃん』


 宿屋のおばあさんの声です。


「はい」


 私がドアを開けると、おばあさんが赤や黄色いベリーの実を山盛りにした小さな籠を持って立っていました。


「これ、家の裏手に山ほどなっててね。うちのじいさんが採ってきたんだ。よかったら皆で食べておくれ」


 ――まさかこの雨の中!?


 私が驚いていると、ほほほ、と笑うおばあさん。


「裏手といってもね、うちの屋根の下まできているんだ。雨に濡れずに採れるんだよ」

「へぇ」


 私たちの部屋からは裏手が見えないのでわかりませんでしたが、そんな屋根があるのなら、採るのも楽なのでしょう。

 

「うちで食べるにも量が多くてね」


 このベリー自体、この村周辺では珍しいものではないらしく、この時期はどこの家でも採っているのだそうです。

 今年は特に豊作だったそうで、まだまだなっているそうです。だったら他所の町や村に売りに行けば、と思ったのですが、このベリー自体が傷みやすいそうで、売り物には向かないのだそうです。


「どうせ食べきれずに鳥の餌になるか、腐らせるかなんだ。どんどん食べてくれると嬉しいよ」


 そう言って私にカゴごと渡して戻っていきました。

 私は試しに、1つずつ食べてみました。黄色よりも赤いほうが酸味が強いですが、私にはほどよい酸味に感じます。


「ロジータ姉ちゃん」

「おいしそうね」


 双子たちがいつの間にか私のそばにきてカゴを覗き込んでいます。


「はい、一つどうぞ」

「んっ、甘いっ」

「これは、ちょっと酸っぱい」


 ダニーが食べたのは黄色いベリーで、サリーは赤いベリーを口にしたようです。

 二人の食欲は止まらないようで、指先がどんどん真っ赤に染まってきています。

 私も黄色いのをもう一度口に放り込みます。


 ――これはジャムにしてもいいし、ドライフルーツにもできるんじゃない?


 余らせるくらいなら加工して長期保存をすればいいのに、と思ったのですが、この辺りでは季節の食べ物として味わうのが一般的なようです。


 ――どうせ、この村に戻ることはないのだから。


 まだベリーの残っているカゴをサリーに渡すと、私はおばあさんの後を追いました。

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