第50話 町の中で野営をする

 クツベスの町の西の端、門の近くの空地では、冒険者たちがチームごとに三カ所、それぞれにかたまっているようです。大柄な男の人たちがほとんどのようですが、中には女性や小柄な青年? のような人もいるようです。

 ちょうど夕飯時のせいか、中に酒が入っているのでしょうか、怒鳴り声も聞こえてかなり騒々しいです。

 私のテントに入ってしまえば、そんな騒音は気にすることもないのですが、ダーウィのことも考えて、できるだけ彼らの所から離れた石壁の近くに馬車を向かわせました。

 私のような子供が一人で馬車を動かしているのを不審に思ったのか、数人の冒険者たちの訝しそうな視線を感じました。


 ――ちょっと気持ち悪い視線もあるわね。


 多くは好奇心や不信感、心配そうな視線ですが、1つだけ粘りつくような嫌な感じの視線がありました。

 ふと、アーカンスの町の冒険者ギルドでも感じた、いやらしい視線を思い出しました。


 ――気を付けないといけないかも。


 今の自分ならなんとかできると思っていますが、双子はそうはいきません。子供だけだと気付かれないようにしなくては、と気を引き締めます。

 私は冒険者たちからの視線を遮るように馬車を停めました。

 

「ロジータ姉ちゃん」

「降りていい?」


 馬車の窓からダニーとサリーが顔を出して声をかけてきました。


「いいわよ。でも、他の人達もいるから大人しくね」


 こちらの様子を窺っている気配を感じながらも、そう答えてドアを開けます。


「うーん」

「おつかれさま、ダーウィ」 


 馬車を降りて背伸びをするのはダニー、ダーウィに声をかけて抱きついているのはサリーです。

 私はインベントリからダーウィ用の桶を取り出し、サリーに渡します。

 サリーはすぐに『ウォーター』と唱えて、桶を水でいっぱいにします。ここ数日、ダーウィの水の準備を任せたり、食器を綺麗にするために『クリーン』を使うようになったおかげで、サリーの生活魔法のレベルが上がっているようです。


「ダニー」

「はーい」


 私は折り畳みの脚立を取り出すと、ダニーに大きめのブラシを渡します。これでダーウィの毛を梳いてもらうのです。

 ダニーは身体強化のスキルを使って、ごしごしとブラシを一生懸命動かしています。


「きもちいいかー?」


 ブルルルル


 ダーウィの嬉しそうな嘶きに、みんなが笑顔になります。

 サリーの入れた水に魔獣用ポーションを数滴垂らし、数本のジーニス(にんじん)をサリーに渡して餌やりまでを任せます。

 その間に私はダーウィを馬車からはずし、テントを設営します。

 時々、冒険者たちのいる方から、どっと声があがるので、そのたびに双子はビクッとなっています。たまに聞こえる荒々しい言葉は、子供には刺激が強すぎるものです。


「二人とも、終わったら中に入ってくれる?」


 私の声の感じで何かを察したのか、双子は大人しくテントの中へと入っていきます。

 

 ――本当にいい子たちだわ。


 彼らがテントの中に入ったのを確認してから、結界の魔道具を馬車を中心に、地面に挿していきます。

 結界が発動するための最後の1本を挿そうとした時。


「ねぇ、あなた、一人なの?」


 女の冒険者が声をかけてきました。

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