第36話 三人で初めての野営をする(1)

 ダーウィは軽やかに荒地を走っています。

 日が高くなっている時間帯は、街道を通る人や馬、馬車が増えているので、私たちは街道から少し外れたところをひたすら走っていました。

 すでにイゴシアの隣の村、ウルーセルは過ぎ、次の村のエデンスゴーも過ぎ、頑張れば今日中には領境の町、オジマーに着いてしまいそうです。

 すでに日は傾いてきています。


 ――このままオジマーに行くべきか。


 昨夜の宿のことを思い出します。

 アーカンスの宿も悪くはなかったのですが、残念ながらテントのベッドの方がいいし、お風呂に入れると思うと、ちょっと考えてしまいます。

 ちなみに、オジマーの先はちょっとした川が流れていて、船で渡らないといけないそうです。


 ――船代がいくらかかるかわからないし、せめて宿代を節約するか。


 まだオジマーの町は見えませんが、ちょうど小さな林が見えてきたので、その近くへと馬車を進めることにしました。

 念のため『探知』スキルで周辺を調べます。


 ――かなり遠くに獣の気配はあるけど、問題なさそうね。


 林の中に入るころには空が赤く変わってきました。

 街道が見えないくらい奥まで来たところで馬車を止めました。あまり広くはありませんが、テントくらいは設置できそうです。

 私は御者台から降りると、馬車のドアを開けました。


「はい、お待たせ」

「わーい!」

「おそとだー」


 馬車のドアを開けると、双子が元気に飛び出して来ました。

 ずっと馬車の中にいたのです。たとえ、広い車内とはいえ、5歳児にはつまらなかったかもしれません。


「こら、あんまり遠くまで行かないで」


 そう声をかけましたが、聞く耳はないようで、二人は追いかけっこを始めてしまいます。


「あー、野営の用意するから、お手伝いしてほしいなぁ」

「やえい?」

「やえい?」

「そう、野営。ここで、お泊りするの。でも、その前にダーウィにお水をあげないとね」


 魔獣用ポーションや風魔法をかけてたとはいえ、ほとんど駆けっぱなしだったのです。年老いたダーウィを酷使したのは確かです。

 私はインベントリから木の桶を出すと、生活魔法の『ウォーター』でお水を注ぎます。


「わたしもやるー!」


 サリーは自分が生活魔法が使えることを教えたとたん、魔法で私のお手伝いをしたがるようになりました。


「ぼ、ぼくは、ダーウィのぶらっしんぐする!」


 生活魔法ができないことを知った時はかなり落ち込んだダニーでしたが、ダーウィにブラッシングすると喜ぶのを知って、自分でやりたがるようになりました。


「ありがとう。じゃあ、サリー、桶がいっぱいになったら声をかけて。ダニー、このブラシでお願いね。はい、この台を使って」

「うんっ!」

「わかった!」


 ダーウィを馬車からはずし、インベントリに馬車をしまいます。念のため近くの木に手綱を縛り付けてから、テントを取り出して設置しました。


 ――結界の魔道具を設置しないとね。


 自分一人の時はテントだけで十分でしたが、ダーウィも一緒となるとそうもいきません。

 テントを中心にして結界の魔道具を四隅に設置しました。これで、ダーウィも魔物や野盗などに襲われることはないはずです。

 

「ロジータ姉ちゃん、一杯になった!」

「わかった」


 水でいっぱいになった桶の前では、サリーが満足げに立っています。

 私はインベントリから魔獣用ポーションを取り出し、少しだけ垂らしたのを持っていくと、草を食んでいたダーウィがすぐさま桶の水を飲みだしました。


「お疲れ様」


 私の声に反応したのか、ダーウィの耳がピクピク動くのを見て、思わず笑ってしまいました。

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