第37話 三人で初めての野営をする(2)

 只今テントの中のキッチンで、夕飯作りにいそしんでいます。


「サリー、このバカラモ(じゃがいものような芋)を洗ってくれる?」

「はいっ!」

「ダニー、このお皿とカトラリーを並べてくれる?」

「はいっ!」


 5歳の双子にお願いできることは限られています。ナイフが扱えるようになればいいんですけど、まだ無理です。


 ――『ピーラー』でもあれば、芋の皮むきくらいはお願いできるのに。


 かつて『日本人』時代の私は散々使ってた調理器具でした。残念ながらアーカンスの金物屋では見かけなかったので、この世界では一般的な道具ではないのだと思います。

 定住できそうな町があれば、そこで作ってくれるようにお願い出来たらいいんですけが、今は、まずこの領から出ることが大事です。

 そしてできたら国も出て、『魔の大森林』と言われる旧アークライ王国まで行って、『フロリンダ』の隠れ家まで行きたいです。そこまで行けば、双子の呪いを何とかできるのではないかと、思ってしまうのです。


「ロジータ姉ちゃん、終わった」

「並べた」

「おー、ありがとう」


 二人ともが『次はなに?』という顔で見上げてきます。

 しかし、お願いしたいことが思いつきません。


「じゃあねぇ……」


 インベントリの画面を開き、何かないかと探します。


「ああ、これがいいかも。二人とも、これで遊んで待っててくれる?」


 私がインベントリから取り出したのは、薄い板に絵が描かれた札の束。いわゆる『トランプ』です。

 野営の見張りの時間の時や、時間つぶしに絵札を使ってメンバーたちと遊んだものです。すっかり使い込まれているせいか、カードの四隅は丸くなってしまっています。

 カードのマークのデザインは違うものの、基本の遊び方は同じ。二人に『ババ抜き』のやり方を教えてあげると、床に座ってさっそく遊び始めました。


 その間に、私は急いでお料理です。

 サリーが洗ってくれたバカラモの皮をササッと剥いて、乱切りにしたのを大きめな鍋に入れます。他にもジーニス(人参)、オンス(玉ねぎ)を切ったもの、そしてワイルゴコッコのお肉を入れて、軽く炒めたところに、牛乳を投入。隠し味にソイの実の果実(味噌)を加えます。

 これに味を整える塩コショウを加えれば、ロジータ特製具だくさんミルクスープの出来上がりです(本当は『コンソメ』でもあればよかったのですけれど、ないものねだりです)。


「さてと、夕食にしようか」


 鍋をもってテーブルへ向かいながら、双子に声をかけますが、絵札に夢中なのか返事もしません。

 私はダニーが並べてくれた木の皿にたっぷりのスープをよそって、アーカンスの街で買ったパンも出します。


「ダニー? サリー?」


 今度は双子の名前を呼びますが返事がありません。

 ちょうど最後の1枚を選び合うところだったようなので、私は声をかけずに様子を窺います。2回ほど、互いにババを引き合ったようで、最後はサリーが勝ちました。


「もういっかい! もういっかい!」


 ダニーが大きな声をあげましたが、夕飯を食べてからと伝えると素直に諦めてくれました。いい子です。

 ロジータ特製具だくさんミルクスープは、私が作ったわりには、なかなかいい出来だったと思います。双子たちもお代わりをしてくれたので、ちょっと自信がつきました。

 お鍋にはまだスープが残っていますが、これはインベントリにしまいましょう。


「じゃあ、サリー、『クリーン』の練習をしようか」

「うん!」


 汚れたお皿にサリーの『クリーン』をかけて綺麗になったところを、ダニーがお皿を重ねてまとめてくれます。


 ――いい子だねぇ。


 チリリンッ


 しみじみと思っているところに、いきなりテントの中に鈴の音が響きました。

 何者かが結界に触れたようです。


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