第34話 馬車の凄さと、町での宿泊

 まさかいきなり馬車の中まで確認するとは思いもしませんでした。


「あ、ちょっと」

「なんだ。問題あるのか」

「いえ、中に小さな子供が寝てるので」

「……いくつだ」

「えと、5歳の子が二人です」

「チッ、入町料一人銅貨2枚、合計4枚だ」

「あ、すみませんっ」


 自分はギルドカードを持っていたので、双子にも通行料がかかることを忘れていました。

 どこの町や村でも中に入るたびに、入町料がとられます。年齢によって金額が違うのですが、それも町や村によって年齢や金額が異なります。この町は一人銅貨2枚で済みましたが、これから立ち寄る場所ではどうなるかわかりません。

 私はマジックバッグから小銭袋を取り出して銅貨を4枚渡しました。

 その間に、若者は馬車のドアを開けようとしたのですが、開けられません。

 それはそうです。使用者権限がない相手が開けようとしても開かないようになっているのですから。


「ちょっと待ってください」


 私は御者台から降りると、ドアを開けます。

 するとそこには、狭い車内で抱き合って寝ている双子と、雑多な荷物が積まれているのが見えました。

 

「(荷物はなんですか)」


 双子が寝ているのに気付いた若者は、声をひそめます。


「(主に薬草ですが、あとは手作りのアクセサリー類です)」

「(薬草?)」

「(はい、薬師のオババにオジマーの知り合いのところまで運ぶように頼まれて)」

「(なるほど)」


 オジマーとは、ゼーノン伯爵領の領境にある町のことです。そこを経由してこの領から出ていく予定でした。

 若者は小さく頷くと、忍び足でその場を去って、おじさんの方に行きました。


 ――はぁ、よかった。


 私はドアを閉めながら、ホッとため息をつきます。

 若者が見た馬車の中の様子は、実は幻影魔法の一つでした。使用者権限のない者が中をのぞいたり、入ろうとした場合、普通の馬車の中身を見せるようになっているのです。


 ――寝ている双子は、本物ですけど。


 ゲイルの魔道具職人の腕には感謝しかありません。


 私たちは無事に、イゴシアの町の中に入ることができました。

 ダーウィと風魔法のおかげで日があるうちに町に入れたのは助かりました。

 このまま通り抜けてもよかったのですが、せっかくなので宿屋に泊まることにしました。

 問題は私たち子供だけで泊まれるかどうかでしたが、私の見た目のおかげなのか、子供扱いされずに双子ともども泊まれることになりました。

 年相応の見た目だったら、親はどうしたとか、聞かれていたに違いありません。

 案内されたのは2階の部屋で、ベッドが2つある、そこそこよい部屋でしたが、3人で1泊素泊まりで銀貨3枚と、私のお財布的にはなかなかのお値段になりました。

 夕食も用意できると言われたのですが、手持ちの物があるのでいいと断りました。


「井戸は裏手にあります。お湯のほうがよければ、銅貨3枚でご用意しますので」


 部屋まで案内してくれた、ぽっちゃりした体型のおばさんが優しく教えてくれました。 

 普通だったら、汗を流すために水やお湯を使うのでしょうが、私たちには馬車のお風呂がありますが、ここはおばさんに感謝しておきます。


「ありがとうございます」

「ありがとーございます」

「ますっ!」


 双子の愛らしい笑顔に、おばさんの目じりが下がりまくっています。


「あの、馬車の様子を見てから、ちょっと買い物に行ってきたいのですが」


 馬車では双子をお風呂にいれてあげたいし、この町で買い足すモノがないかどうかも確認したいのです。


「ええ、構いませんよ。出るときにはカウンターで鍵を預けてくださいね」

「はい、わかりました」


 私たちは部屋の鍵をしめると、おばさんの後をついていきました。

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