第33話 まずは隣の町を目指す
もこもこの床の上で、双子が気持ちよさそうに寝ています。クッションに涎がついてますが、後で『クリーン』をかければ済むことでしょう。
双子を馬車の中に残し、外に出ます。まだ日は高いようなので、もう少し先に進むつもりです。
――念のため、『探知』。
少し、ここに居すぎたようです。魔物の気配とともにそれを追ってきた冒険者らしき気配があります。
「ダーウィ、少しは休めた?」
ブルルルル
ご機嫌な返事のようなので、私は彼の首をパンパンと叩きます。
「じゃあ、頑張って先に進もうか」
私は御者台の上に乗ると、追い風の魔法をかけます。こうすればミトスドンク(荷運び用ロバ)でも、この馬車を引くことができるはずです。
――そもそも、この馬車自体が軽量化の魔法陣が描かれてるから、問題ないはず。
私の予想通り、 ダーウィは軽々と馬車を引き始めました。
魔物と冒険者たちから離れるようにゆっくりと森を抜けると、少し先に大きな街道があるのが見えます。行商人の一団がアーカンスの方へと向かっていくのが見えましたが、私は、その反対側、隣町のイゴシアの方へと馬車を向けます。
「さぁ、ここからは本気で走っていいわよ」
ブルルルルン
私の言葉に答えるように、ダーウィは徐々にスピードをあげていきます。
遠くにあった馬車の陰がぐんぐん近くなっていきます。
「あ、これ以上早いと怪しまれるか」
怪しむだけならいいですが、面倒な相手だったりすると追いかけてくる輩もいそうです。
私は街道から少し外れて進むことにしました。普通の馬車だと整備されていない場所を走るのも一苦労なのですが、ゲイルの手にかかれば、道なき道でもガタガタいわせることなく進むことができます。
――隠蔽用の魔道具も買っておけばよかった。
私のスキルの『隠蔽』が馬車全体を隠せればよかったのですが、残念ながら私個人だけにしか効かないのです。
――もう少し経験を積んだら変わるかしら。
スキルも魔法も、明確なレベルのようなモノはありません。
ただ繰り返し行うことで、ある日、急にできるようになったり、パワーがあがったりするのです。隠蔽のスキルも、繰り返し使ううちに、隠蔽できる範囲が広がるといいのですが。
小一時間ほど馬車を走らせたところで、遠くに小さな町が見えてきました。アーカンスの隣町のイゴシアです。
アーカンスの街のような立派な石壁ではありませんが、野犬やオオカミなどの獣くらいだったら、なんとかできそうです。この程度の石壁で済んでいるということは、このあたりは魔物の被害はあまりないのでしょうか。
近くには私たち以外にの馬車は見えなかったので、私はゆっくりと街道のほうへと馬車を向けます。
「……身分証」
無愛想な衛兵のおじさんが、じろりと睨みながら私に声をかけてきました。
私は無言で商人ギルドのギルドカードを見せました。
「……そんな小さななりで、行商人か」
「まぁ、そんなところです」
――実際には違いますけど。
「荷物は?」
「馬車の中に」
「確認させろ。おい、お前、行ってこい」
「は、はいっ」
おじさんの後ろにいた十代前半くらいの見習いらしき若者が、慌てて馬車に駆け寄ってきます。
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