第20話 ロジータ、院長先生と話をする(1)

 孤児院の食事は、とても質素な物です。スープは具がちょびっとしか入ってません。黒パンも近所のパン屋さんが売れ残りを寄付して下さった物です。それでも、完売してしまうこともあるのですから、あるだけマシなのです。

 この孤児院には、院長先生の他にスタッフは、週に何度か来て下さる教会のシスターしかいません。

 そしてお世話になっている子供たちは、私よりも年上の子が3人と、私よりも下の子たちが11人、一番小さい子はまだ赤ん坊です。

 年上の子たちは、院長先生と付き合いのある職人さんの工房に通っています。今、冒険者をやっているのは、私くらいなのです。

 小さな子たちの面倒を見ながら、皆でがやがやと食事をします。美味しい食事を思い出してしまった今では、物足りないものではありますが、皆で食べる楽しさの方が勝っています。


「ろじーた、おしごと、どうだった?」

「どうだった?」


 私の席の両隣には、ダニーとサリーが座っています。双子の二人ですが、髪の色が違います。ダニーは金髪、サリーは茶髪。瞳の色は二人とも綺麗なエメラルドグリーンです。天使のようなニコニコ笑顔を向けられた私の顔は、きっとだらしのない顔になっていることでしょう。

 二人は一生懸命に私に話しかけてくるので、私も頑張って話します。

 こうして子供たちと話をし、笑顔を見ていると、これから街を離れなければならないことが、酷く辛く感じました。

 食事を終えて後片付けをした後、私は院長先生に呼ばれて院長室へと向かいました。


「さぁて、いったい何があったというの?」


 私は院長先生に、自分の前世の記憶や魔法が使えるようになったこと以外、素直に話しました。 

 特に、いきなりの指名依頼だったことと、ダンジョンに連れていかれたことがショックだったようで、院長先生は額に手をあてて大きくため息をつきました。


「まさか、そんなことがあったなんて……最近の冒険者ギルドはどうなってるのかしら」

「……副ギルド長のシルビアさんは、よい方でしたが」

「そうなのね」


 院長先生は、少し考え込んでいます。


「あの、先生?」

「うん?」

「私、この街を出ます」

「ロジータ……」

「だって、絶対、あの人達、私を探しに来るような気がするんです」

「……」

「それに、もう、ここのギルドでは仕事はできないでしょう?」

「ああ……」


 ギルド長がアマンダさんと繋がっているのです。そもそも、受付に彼女がいる時点で、どうしようもありません。


「ただ気がかりなのが、ダニーとサリーなんです。私がいない間は、大丈夫でしたか?」


 戻ってきてからずっと私の後をついて歩いていた二人です。今は他の子たちが面倒を見てくれていますが、院長室に行くだけなのに泣きそうな顔になっていたのです。


「そうね。ロジータが出かけた日は大変だったわ」


 院長先生が遠い目になっています。相当大変だったのでしょう。


「ただ、次の日からは大人しくなったのよ。皆で、ちゃんと戻ってくるって言い聞かせたからかもしれないけれど。でもねぇ。部屋の片隅で二人で表情もなく、くっついてるだけなの。何度声をかけても動こうとしなくてねぇ」


 私が孤児院に入る前までも、双子はそんな感じだったそうです。

 二人の様子が想像できてしまった私は、改めて決心しました。


「……私、ダニーとサリーも連れて行こうかと思っているんです」

「なんですって」


 院長先生は酷く驚いた顔になりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る