ロジータ、街を出る
第19話 ロジータ、孤児院に戻る
お金を受け取り、冒険者ギルドを出る頃には、もう日が傾いていました。
そして、私のマジックバッグの中には、シルビアさんから渡された紙があります。その紙は、シルビアさんが私、ロジータの後見人であるという証明の紙です。
『よその街の冒険者ギルドで困ったら、これを出すといいわ』
にっこり笑って渡されましたが、アーカンスの冒険者ギルドの副ギルド長のシルビアさんに、そんなに力があるとは思えません。それでも、気にかけてくれたことがありがたく、大事にバッグにしまいこんでいます。
「あの、ホーマックさん」
私の隣を歩くのは、わざわざ孤児院まで送ってくれるというホーマックさんです。
「私、一人で帰れますよ?」
今までは一人で街の中を歩き回っていた私にとっては、すでにお馴染みの街なのです。なのに、なぜ、と不思議に思っていると、ホーマックさんは私の頭をごしごしっと強く撫でました。
「昨日、今日と大変だったんだ。孤児院に戻るまでくらいは送らせてくれ」
「……ありがとうございます」
親切心でついてきてくれているのです。ありがたく思うべきなんでしょうけれど、せっかく貰ったお金で、ちょっと買い物をして帰りたかったです。でも、仕方がありません。
私がお世話になっている孤児院は、一応、領主様からの支援で成り立っているというのは建前で、実際にはそれだけでは経営が厳しいようで、かつては、孤児院出身の冒険者たちからも援助を受けていたそうです。
しかし、ここ1、2年、その援助が激減したそうです。それは、この街から孤児院出身の冒険者たちがいなくなってしまったからだそうです。何があったかわかりませんが、嫌な予感しかしません。
そんな孤児院は、アーカンスの街の中でも北側の端にあります。周囲は平民の中でも下層にいる人達が多く、お互いに助け合っているような感じです。
古びた建物には、あちこちにヒビが入っています。修理が必要なんですが、今は、そんな余裕はありません。
「ただいまー」
孤児院の重いドアを開けて声をかけます。
「おかえりなさいっ!」
「おかえりー!」
「ロジータねえちゃっ!」
「おかーりー」
私よりも小さい子供たちがいっせいに抱きついてきます。力の加減を知らないので、思い切り抱きついてくる子もいて、踏ん張らないとつき飛ばされそうです。
「ロジータが帰ってきたのかい?」
奥の部屋から出てきたのは、私と同じくらい小柄な白髪の院長先生です。
「た、ただいまです」
「ああ、よかったよ……お帰り」
私の顔を見てホッとしたようで、大きくため息をついてから、笑みを浮かべて私をぎゅっと抱きしめてくれました。
「怪我とかしてない?」
「はい、大丈夫です」
「しかし、4日も戻って来ないなんて……あら、衛兵の」
一緒に来てくれたホーマックさんに気付いたようで、院長先生は慌てて頭を下げています。
「あの、この子が何か?」
「いえいえ……じゃあ、ロジータ、またな」
「あ、はい。わざわざありがとうございました」
私がペコリと頭を下げると、ホーマックさんは片手をあげて去っていきました。
「それにしても、こんなに時間がかかるなんて……初めての仕事だって張り切って出ていったけど、どんな仕事だったんだい」
「あー、うーん」
「……何かあったんだね。まぁ、詳しいことは後で聞こうじゃないか」
私はコクリと頷くと、院長先生の後をついていきました。
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