第17話 アマンダさんとギルド長
問題のアマンダさんという女性は、もう28歳と、受付担当の中ではとうが立った女性なのだそうです(ちなみに、他の受付女性たちは10代後半から20代前半)。
そのアマンダさんですが、以前は貴族のご令嬢だったそうです。
貴族のご令嬢だった、ということは、今は平民のはずです。でも、いまだにご令嬢のクセが抜けないようで、特に年下の女性には上から目線でモノを言うことが多いのだとか。
遅刻はするわ、早退はするわ、書類のミスは多いわ、と後輩だけではなくシルビアさんも何度もフォローしたのだとか。
「偉そうに言うなら、ちゃんと仕事しろって、言いたいところなんだけど、なぜか男性受けがいいのよね」
彼女は童顔で庇護欲をそそるような顔立ちだそうで、中堅以上の冒険者は彼女の本性を知っているのか相手にしませんが、特に若手の男性冒険者たちに人気があるそうです。
「ほんっとに、アレに騙されている男の多いこと!
シルビアさんは呆れたようにそう言います。
その騙されている男には、『黄金の獅子』のリーダーも含まれているのだそうです(パーティにいたお姉さんたち、リーダーにべったりだったけれど、いいんでしょうか)。
それにはギルド長も含まれるらしく、シルビアさんが何度指摘しても、相手にしてくれないそうです。
「今日はギルド長も休みだし、アマンダと一緒なんじゃない?」
「え、まさか」
「ふんっ、奥さんが気付いてないと思ってるんでしょ」
なんと、ギルド長は既婚者でした。
そして彼の浮気は、ギルド職員の中では公然の秘密となっているそうです。その浮気について女子職員が奥さんにご注進していないわけがなく、すでに奥さんもご存知なのだそうです。離婚準備が終わるのも秒読みで、それを知らないのはギルド長本人だけなのだとか。
ギルド長も、お馬鹿さんなようです。
「でも、タイミングがよかったわ。ギルド長やアマンダがいる時に、ロジータのこの到達フロアの情報や、戻ってきたことを知られなくて」
「もしかして、ロジータの指名って」
「下手すると、ギルド長も絡んでいるかもしれないわ」
シルビアさんが教えてくれました。
指名依頼というのは、ある程度の実績のあるCランク以上でないとダメだそうで、例えポーターといえど、初心者のそれも初っ端に指名依頼なんてありえないのだそうです。
――そりゃあ、そうよね。
前世の記憶を思い出した今になってみれば、私でもわかります。
そもそもが私がつき落とされた地下14階自体が、初心者が行くレベルのフロア階数ではないのです。
「きっと、ギルド長はミリアのバッグをロジータが持ってることを知ってたね」
「……やっぱり、そう思うか?」
「ええ」
シルビアさんはきっぱりと頷きました。
「きっと、マジックバッグを持ってるロジータを囲いこんで、使いつぶすつもりだったのよ」
「……俺もそう思う」
ホーマックさんも、怖い顔でそう言います。
前世の経験がある私も、特にギルド長も絡んでいる可能性が出てきてからは、内心、そうなのかな、と思ってました。
ただ、ギルド長たちの予想外だったのは、パーティのお姉さんたちが、私のマジックバッグを奪おうとした上に私を殺そうとしたことでしょう。
彼女たちのおかげで前世の記憶を思い出せましたし、ポーターとして使いつぶされた可能性があったことを知ることができましたけど。
――早いうちに、この街から出た方がいいかもしれない。
私は腕の中の母の形見のバッグを強く抱きしめました。
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