第30話 直談判


 翌日早朝。

 隊員は一斉に起き、帰る身支度を行う。

 幸い、野営中にモンスターに襲われることはなかった。


「これより帰還する。総員車両に乗り込め」


「はっ!」


 ルリもレオも負傷しているため、帰還するまでの指揮を、グラルバが担うことになった。

 重傷者のレオとスーリンは、担架で別の車両へ運ばれた。

 その車両へ、ルリも同行した。

 他の隊員は、スクラープを装備して普段乗っている車両へ乗り込む。


「あれ? ルリ小隊長もこっちの車両?」


 付き添いの第1小隊の女隊員が聞いてきた。


「ああ、別に怪我は大丈夫なんだがな」


 そう言いながら、ルリは車両に乗り込んだ。


「まあアナタも一応負傷者だしね。乗ってきなよ」


 その隊員は、救急キットのようなものを手に持って、最後のその車両に乗り込んだ。

 一応隊員は、応急処置ねど、最低限の医療技術はある。

 その中でもこの隊員は、戦闘に不向きのため、医療の勉強を人一倍しているそうだ。




◇ ◇ ◇




「......そういえば昨日の晩、レオ小隊長を抜かした部隊のリーダー同士で喋ってたけど、何を話してたの?」


 車両に乗って数分、女隊員が話しかけてきた。


「あっ、ごめんごめんっ。私ハナって言うんだ。18歳の砲兵ガンナーね。一応だけど」


「ああ、よろしく。昨日の話は極秘だ。話せられない。まあコイツは目が覚めたら話す」


 レオはフォーンの群れから逃げ切った後、意識を失ってしまい、ずっと目を開けない。


「あと1日眠れば目が覚めますよ」


 ハナはそう言ってくれた。


「どうだかな――」




「どうした? 俺たちを集めて」


 作戦終了後、あるテントで、ルリ、グラルバ、ラギルスの3人が集まっていた。


「内緒話ですか?」


「お前らは見てない、あのモンスターのことを話しておこうと思ってな」


「ん? それなら基地に着いてから、スクラープの戦闘データを見れば――」


「ダメだ」


 グラルバの言葉を遮った。

 実際スクラープには、レンズ越しに映る光景を記録する機能がある。

 それを確認し、新種のモンスターなどの特徴を洗いざらいにし、次の任務で役立てたりするのだ。


「な、なんでですか?」


 険しい剣幕のルリを見て、ラギルスは怯えながら聞いてきた。


「映像が加工される可能性がある」


「……どういうことだ」


「あの死神みたいなモンスター。戦ってみて分かった。アイツはスクラープを纏っていたっ」


「なっ……」


「嘘っ……」


 2人は言葉を詰まらせた。


「見間違いと言うことは?」


「ない。なんならスクラープの出力上昇も見た」


「くっ……とんでもない情報を話したな」


「え、私たちもいずれ……」


 沈黙が流れる。


「それも踏まえて、基地に戻ったら隊長に聞くつもりだ」


「直談判ですか!?」


「俺たちも同行しろと?」


「いや、俺だけで行く。もし俺が帰ってこなかったら、そういうことになる」


「つまりお前は、帰ってこなかった場合のバックアップをしろと言うことか……」


 グラルバは、ルリの伝えたいことを察した。


「ああ、お前らには迷惑を――」


「嫌です!」


 ラギルスは声を張った。


「ルリさんは第4小隊に! このG17隊には必要な存在です!」


「何言って……」


「同感だ。スタンピードが予想されている今、お前を失うのはかなり痛い」


 2人は、ルリの案を却下した。


「じゃあどうするつもりだよ」


「それは――」


「俺たちも――」


「「一緒に行く」」


「……上のとんでもない力で消されるかもなんだぞ」


「上等だ。どうせ化け物になる運命なら、俺は抗うぞ」


「私も! 一緒に戦います! 私たち仲間でしょう!」


「――分かった。だが、他の小隊長も連れていくぞ。少しでも生存確率を上げる」


「異論はない」


「うんうんっ」


 最終的に、実力のある者を連れて、G17隊隊長に直談判することになった。




「――俺も一休みさせてもらうか」


 ルリは車両の中で横になった。

 決戦前夜の宴のように、直談判の前に休むことにした。


「そう。着いたら起こすよ」


「ああ、ありがとう」


 ルリはハナに甘え、寝ることにした。


 それにしても、よくそんな余裕でいられるよね。

 仲間が昨日死んだばっかなのに。

 普通は辛い。

 私も辛い。


「みんな変に取り繕ってるから、朝は余計辛かったよ……」


 ハナはそう言ったが、ルリはもう寝息を立てている。


「もう寝ちゃったの?」


 ハナは横になっているルリにスススッと近づく。

 そして手を目に優しく被せた。


 寝たばっかりだから浅いには浅いけど、もうすでに深い眠りに入りかけてる。

 余程疲れたのかな。


 そのときつい、ハナはルリの軍服を捲った。

 昨日怪我したということも聞いており、少し診てみようと思ったのだ。


「ひっ……」


 ルリの体を見たハナは、声を上げてしまった。


「何この体……」


 ハナが引くのも無理はない。

 16歳の体とは思えないほどの、傷痕だらけの屈強な体だったのだ。


「き、昨日の傷は……」


 ハナは昨日の傷を確認しようとすると、思わぬ光景を目の当たりにした。


「嘘っ……傷がほとんど治癒してる?」


 肩甲骨の横ラインをグルグル巻きにしている包帯からは、かなりの大怪我をしているように見えた。

 しかしバレないようにそーっと解くと、切り傷のほとんどが、傷口が塞がっていた。


 どんな回復力してるのよ……!

 それにこの脇下の痣っ! 腫れてるし、黒く内出血が広がってる。

 明らかな骨折……。

 今まで痛がる様子も見せなかった。

 どんな精神力と、肉体を持っているのよ!


「このまま悪化したらマズイね……」


 ハナは救急キットを開け、ルリを起こさないように治療を始めた。




◇ ◇ ◇



「ふぅ、ひとまずこれで大丈夫かな」


 ハナは額の汗を拭い、ルリの治療を終えた。

 と言っても、簡易的なことなので、悪化するのを防ぐ処置だけだ。


「にしても……明日確認するか」


 寝息を立てるルリを見たハナは、あることが気になったのか、明日ルリに会いにいこうと考えていた。


 もしかしたら第4小隊小隊長ルリは――。




――もう人間じゃないのかもしれない。

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