第29話 また1人
「うおおおおおおおおっ!!!」
響き渡る叫び声は、歓声というよりかは、賞賛の声に近かった。
「さすがグラルバさんだ!」
「まさか森の中にこんな空間を作るなんてなー」
第1小隊の隊員たちは、口々にそう言った。
「ふぅ……」
「よくやったな」
茂みの中で指示を出していたグラルバに、ルリが近づきこう言った。
「なんだお前か」
顔もこちらに向けずに返事をした。
その目線の先にはフォーンたちの死体がある。
「今回の件で話が――」
「1つ聞きたい」
グラルバは言葉を遮った。
「なんだ?」
「俺の作戦をどこまで理解していた」
「……森を罠を張ること」
「なぜ?」
「今回はフォーンだったが、場合によってはあの死神が来ていた。真っ向勝負では死人がさらに出る可能性がある。となると、罠を張って誘き寄せるべきだ。罠を作る際、その死神が大量に斬った木が多い場所を使えば時間をそこまでかからないしな」
「その通りだ。モンスターに挟撃は有効打だからな。こういう罠なら、部隊1つで作れる」
「まあ逃げる先も読んでくれるとは思わなかったがな」
「いや、お前ならこっちに逃げてくるだろう」
「根拠は?」
「勘だ。お前とは俺と同じ雰囲気を感じる」
「……いざ言われるとキツイな」
「フンッ」
グラルバはルリに背を向け、先ほど逃げてきたレオ部隊の元へ向かった。
「待て。話しておきたいことが……」
「それは今言わなきゃいけないことか?」
グラルバは足を止めたが、振り返ることなくそう言った。
「別に今って訳ではないが」
「ならば後で話そう」
「だが早めに言っておいて損はない」
「悪いが後にしてくれ。仲間の死んだんだ。整理する時間がいる」
「……」
グラルバはそう言うと、再び歩き出した。
「…………アラン」
ルリはグラルバの後ろ姿を見て、アランの名を呟いた。
◇ ◇ ◇
「うぅ……ここは?」
意識を失っていたスーリンは、暗闇の中で目が覚めた。
スクラープを装備しておらず、軍服を着ていた。
「私は左腕を……」
死神に攻撃された左腕を見るが、特に外傷はない。
「ん? あれは――」
突然、視界の隅に誰かが映りこんだ。
「……アラン?」
距離は離れているが、あの後ろ姿はアランで間違いないだろう。
アランもスクラープを装備していなかった。
「おいアラン! ここがどこか分かるか!」
「……」
アランに聞こえるほどの声を出したが、反応がない。
アランはそのまま、奥へ歩き出した。
「どこへ行く! そっちが出口か!」
「……」
スーリンはアランを追いかけようと、立ち上がった。
しかし――。
「足が進まない?」
金縛りにでもあったように足が動かない。
「待ってくれアラン!」
「……」
アランは歩みを止めない。
「アラン! クソッ……」
スーリンは焦っていた。
アランと二度度会えない気がしたからだ。
「ま、待ってくれっ。アラン! アラン……」
「アランっ!!」
――スーリンは簡易的なベッドの上で目を覚ました。
◇ ◇ ◇
「…………え」
「目が覚めたか?」
横を見ると、物資が入った箱に腰掛けているルリがいた。
何やら難しい顔で本を読んでいる。
テントの中にいることは分かったが、辺りはすっかり暗くなっているようだ。
「今はどういう状況……ッ!」
「起きるな寝てろ。重症なんだぞお前」
スーリンは左腕に目をやると、包帯でグルグル巻きにされ、真っ直ぐに固定された腕になっていた。
「ア、アイツはどうなった……」
「討伐はできなかった。退かせることはできたが」
「そ、そうか」
少しホッとした表情を見せた。
「みんなは?」
「第1小隊の隊員が2人死んだ」
「……」
「あと、言いにくいが……アランが死んだ」
「ぇ……」
スーリンは目を見開いて、ルリの方を見た。
「悪いが本当のことだ。間に合わなかった」
「なっ……ああ……」
スーリンの目から涙が溢れ出る。
「……とりあえず今日は休め。野営して、明日の朝基地に戻る」
ルリは泣くスーリンをほっといて、本のページをめくった。
このテントの外側でも、静寂が流れており、不気味な雰囲気を漂わせていた。
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