第28話 脱出&任務完了
「ハァ、おいっ! あとどれくらいだー!」
ジャズが大声で聞いてきた。
「あと少しのはずだ!」
ルリの記憶では、もう少しで仮拠点のはずだ。
だが今となっては、森の外まで逃げなきゃ行けないので、この情報はあまり意味が無い。
「フォオオオッ!!!」
ルリたちが少しずつ走っているスピードが落ちているが、フォーンの群れも同様にスピードが落ちてきている。
これなら……。
「もし森の外まで追ってきたらどうするの!」
第1小隊の
「多分迎撃体制を取っていると思う」
ルリはそう答えたが、周りはいまいち納得していない。
「群れで追われてることは伝えられてないんだぞ!」
他の隊員もそう言ってきた。
「AかS級のモンスターがいるとは伝えられてるはずだ。しかも死者も出たとも。その場合どうするか」
「体制を立て直す?」
ルリの問いに、ラギルスが答えた。
「そうだ。ソイツは森がナワバリで、森から出ない可能性もある」
「だから森の外に出ればいいって訳ですね!」
「ああ。まあ木をあんなに切り倒してる時点でその可能性は低いんだけどな」
「なっ……」
しばらく、ルリとラギルスの掛け合いが続いた。
「け、結局! 何をするんですかっ!」
何度答えを出しても、ルリに否定されたラギルスは、怒ってそっぽを向いてしまった。
拗ねた……。
「悪い悪い。まあ結論で言うと――」
「森自体を罠にする」
◇ ◇ ◇
「な、何する気だよ!」
グラルバ部隊は、仮拠点ではなく、森の外に向かって走っていた。
もちろん、マルクはその行為に声を上げた。
毎回毎回マルクが怒っているように見えるが、逆に第1小隊の隊員たちは何故反論しないのか、第4小隊の隊員たちは疑問に思っていた。
「今から仮拠点に戻るのは悪手だ。怪我人が出る」
ちゃんとグラルバも、毎回マルクの問いには答えている。
「だから俺たちだけで逃げるのか?」
傍から見ると、自分たちだけ逃げているようにも見える。
「いや、形成を逆転する手を打つ」
「……何?」
「この作戦が通れば、これ以上死人を出さずに任務も達成することができる」
「なっ……どんな作戦だよ」
流石にマルクも、その作戦に興味があるようだ。
「森を罠にする」
「……は?」
ルリの読み通り、罠を張る作戦を考えているようだ。
「罠って、地形を利用するのか?」
「いや、森を削る」
「……は?」
◇ ◇ ◇
「森自体を罠にするって一体……」
ラギルスを含む、ルリ以外の隊員は、全員が理解していなかった。
「そのままの意味だ。脱出すると見せかけて、はめてやるんだよ」
「この状態じゃ無理ですよ?」
「俺の予想だと、グラルバが指揮を執って、森の入り口に罠を作ってると思う」
「なん――」
「なんでグラルバが?」
ルリはラギルスの言う言葉を予測して遮った。
「A級かS級のモンスターが現れ、重傷者と死人が出た。と聞いたとき、俺とお前は救援に向かった」
「はい」
「だがこの時間まで、グラルバの部隊の誰も救援に来ない。となると、何か策を考えてると踏んでいいだろう」
「だからといって、森を利用して罠にするって分かるんですか?」
「俺ならそうするからだ」
「……と言うと?」
「勘だ。アイツからは俺と同じ匂いがする」
「い、犬か何かですか?」
ラギルスは若干引いている。
「お、お前らしからぬ発言だな」
ジャズも少し驚いている。
この発言で、並走しているルリとの距離が開いた気がする。
「……言い方が悪かったか」
「アハハハッ……ゲホッ」
ツボに入ったレオが無理に笑った。
「ハハハ……でも、グラルバは第1小隊の、指揮を執っている、からね。もしルリの意見が正しかったら、この中隊は2人も優秀な司令塔がいることになるね」
「どっかの誰かが突っ走ったら台無しだけどな」
「うぐ……」
ルリのブラックジョークで、レオは黙ってしまう。
「フォオオオオッ!!」
「おいっ! 作戦とか冗談とかどうでもいい! 追いつかれちまうぞ!」
フォーンの雄叫びと、ジャズの一声で、全員が我に返り、逃げることに集中する。
「お、おいっ! あれを見ろ!」
第1小隊の
木々の隙間から光が入ってきているのだ。
それも大量に。
「そ、外だ……森の外に出るぞぉおお!!」
隊員たちは声を上げ、逃げきれたことに歓喜する。
「皆さん! まだ終わっていません! フォーンがまだ追ってくる可能性があります! すぐに迎撃体制を!」
「その必要はない」
ルリはラギルスの言葉を制した。
「総員! 森の外に出ても一直線に走り続けろ! 気を抜くなよ!」
「お、応ッ!」
ルリの指示により、緩んでいた空気が引き締まる。
そしてスピードを保った隊員たちは今、森の外に――。
◇ ◇ ◇
「なっ!?」
「……よし」
ラギルスは、森を抜けると広がっている光景に驚いていた。
それに対しルリは、分かっていたような反応を見せた。
なんと抜けた場所は、正確には森の外ではなく、森を削ってできた広い空間だった。
「一応外にも繋がっているみたいだぞ!」
ジャズが前方を見て叫んだ。
「おーい!」
アリナの声が聞こえた。
声が聞こえた方向ぬは、たくさんの隊員の姿が見えた。
「総員! あそこに向かって走れ!」
ルリが指示を出し、全員が全速力で走る。
「フォオオオオッ!!!」
それと同時に、フォーンの群れも茂みから飛び出てきた。
異様に開けた場所に危機感を持たずに突っ走ってくる。
「ハァ、ハァ、ここまで引きつければ――」
「今だ!」
どこかからグラルバの声が聞こえたと思うと、フォーンの群れを挟むように銃撃や砲撃が始まった。
「ッ……!?」
角では前方しか防げないため、横からの攻撃が異常な程に命中する。
さらに開けた場所では身を隠すことも出来ず、フォーンの群れの勢いは一気になくなった。
「……撃ち方止め!」
もう叫び声も聞こえなくなったのを確認し、グラルバは攻撃を止めさせた。
砂煙が晴れるとそこには、ピクリとも動かない大量のフォーンの死体が積み上がっていた。
「フォーン討伐、完了」
「うおおおおおおおおっ!!!」
グラルバの声を聞いた隊員たちは、歓喜の声を上げた。
先ほどまでの絶望感とは打って変わり、あっけなく、フォーンの群れを討伐してしまった。
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