第27話 脱出(1)


「皆さんついてきていますか!」


「応ッ!」


 ラギルスを先頭に、ジャズを含む近接部隊2名と砲兵4名が後を走っている。

 あくまで緊急の救助なので、狙撃手は来ていない。


 アランさん、レオさん......ルリさん。

 どうか無事でいて下さいっ。


「お、おいっ。何の音だ?」


 第1小隊の近接部隊が片手で耳を澄ませるポーズを取ってそう言った。


 ラギルスも逸る気持ちを抑え、周囲の音に集中する。


「?」


 走っていて気づかなかったが、確かに地鳴りのような音が聞こえる。


 モンスターの群れ?


「おいラギルス! 何かおかしい! もう少し進んで誰も見当たらなかったら引き返すからな!」


 ジャズがこの森の異変を感じ、ラギルスに忠告する。


「分かってます! でもっ!」


「分かってる! ギリギリまで探すぞ!」


「ッ......はいっ!」


「あっ! あそこに誰かいる!」


 第1小隊の砲兵が、前方に指をさして叫んだ。

 確かに、何か人影のようなものが見える。


「はっ……ルリさんっ!」


 ラギルスが声のトーンを上げて叫んだ。

 そこには確かに、レオを担ぎながら走ってくるルリの姿があった。


「レオ小隊長も一緒だぞ!」


 しかし喜んだのも束の間、地鳴りのような音がさらに大きくなった。

 

「おいおいおいおいっ!」


 ジャズがルリの背後を見て焦っていた。

 

「悪い。こいつら何とかしてくれ」


 ルリの背後には、フォーンの群れが迫っていた。

 とっくに距離は詰められ、もう目の前まで迫っていた。


「馬鹿野郎! この数は無理だ逃げるぞ!」


 ジャズはすぐにルリに近づき、代わりにレオを担いだ。


「すまないね......」


「謝るのは全部終わってからにしろ!」


 ラギルス部隊は、ルリとレオを回収し、回れ右して逃げ出した。


「ルリさんっ! アランさんはどこにっ!」


 ラギルスがルリに並行して、ここにいないアランのことを聞いてきた。


「アランは死んだ。ドッグタグは回収した」


 ルリは淡々と報告し、アランのドックタグをラギルスに見せた。


「嘘っ......」


「まずは逃げることに集中しろ。森から脱出する」


 動揺し始めるラギルスをすぐに正気に戻そうとする。


「......分かりました。これよりこの部隊の指揮権をルリさんに託します!」


「はっ!」


 よく落ち着いたな。

 これなら指示が通りやすい。


「よし。森から脱出することを仮拠点に伝えろ」


 第1小隊の砲兵の1人に指示を出す。


「は、はいっ!............あれ?」


「どうした? グレードフープで通信障害は起きないはずだ」


「そ、それが繋がんないですよ。仮拠点の場所も分からなくなってるっ......」


「何っ?」




◇ ◇ ◇




「こちらグラルバ。第4小隊のベルハラで合ってるな」


「ああ」


「お前たち仮拠点組に指示を出す」


 ベルハラが判断に迷っていたとき、グラルバから連絡が入ってきた。


「……助かった。ちょうど指示に迷っていたとこだ」


 情けないと思いながらも、ベルハラはホッとした。


「じゃあ今からすぐ物資をまとめて退散だ。入ってきた道を一直線に戻れ」


「……まだどこの部隊も戻ってきていないぞ」


「そこも考えてある。多分そろそろルリの部隊が戻ってくるだろう」


「じゃあその部隊と一緒に脱出すればいいんだな?」


「ああ。今すぐに準備を始めろ」


「……一応聞くが、死人は出ないよな」


「……俺の見立てではな。戦いに絶対はないが」


「分かった。じゃあ切るぞ。グレードフープも回収するから、これで通信は最後だ」


「ああ」


 ベルハラは、考えられる危険を確認したうえで、通信を切った。


「ベルハラ?」


 通信が終わったのを確認して、イオが顔を覗いてきた。


「よし。脱出準備だ。総員! たった今グラルバから指示が来た! 退却準備だ! この森から脱出する!」


「はっ!」


 困惑すると思っていたが、グラルバの名前を聞いたからか、第1小隊はすぐに行動に移った。


「凄いな。信用されてるんだね」


 この行動に移る早さに、イオも驚いていた。

 それほどに、グラルバのことは信用されているらしい。

 きっと、普段の指揮も彼がやっているんだろう。


「私たちも準備するぞ」


「は~い」


「……ぶっちゃけ聞くけどよ。一応仲間が死んでるのになんで平気なんだ?」


「……はぁ、戦闘中にそういうこと気にしないわけじゃないけどさ。一々思い返してたら早死にするよ? だから重い過去を一度忘れて戦ってる人は強いんだよ。ルリとかね」


「……」


「つまりベルハラは弱いってこと。ほら早く準備するよっ」


「チッ…………敬語使え馬鹿」




◇ ◇ ◇




「通信が繋がらないとなると......先に退却したな」


「ええ!? 私たちを置いてですか?」


 ルリはグラルバの指示を読んでいた。

 ラギルスは読めていなかったようで、驚いている。


「ちょっと待てよ! それってつまり、俺たちは仮拠点じゃなくて、森の外まで逃げなきゃいけないのか?」


 ジャズが言ったように、逃げる距離が遠ざかってしまったという事態になってしまった。


「流石に辛いが、木々を避けてる俺らに対して、フォーンたちは木を倒しながら突進してきている。相当体力を消費しているはずだ。俺らが逃げ切れる可能性も存分にある」


 ルリは論理的意見を述べ、全員を鼓舞する。


「でもそれは……」


 ルリさんも体力を消費している。

 という言葉は、ラギルスの口から出てこなかった。


 言ったところで、いいように丸みこまれるだけ。

 ルリさんの為にも黙っておこう。

 でも少しでも遅いと感じたら、私が担いでいきますからねっ。

 あとで怒られるかもだけど……。


「フフッ」


「こんなときに何笑ってるんだ。後で説教な」


「え」

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