第25話 死神戦決着


 ルリが死神の意識を落としきる寸前に、おかしなことが起こった。


「ん?」


――ゴゴゴゴゴッ


 地鳴りのような音が、森に鳴り響く。


「なんだ? 何をし――」


「フォオオオオッ!!」


 突如茂みから、フォーンが飛び出してきた。


 くそっ、こんなときに。


 こっちに向かって突進してくるフォーンに注意が向き、絞める力が緩んでしまった。


「ガアッ!!!」


「しまっ――」


 死神は、背負い投げのように、ルリの体を投げ飛ばした。

 絡めた足の踏ん張りも虚しく、突撃してくるフォーンに向かって投げられてしまった。


「フォオオオッ!!」


「がっ……!?」


 見事にルリの体は、フォーンにぶつかってしまった。

 角が当たった胸からは、ミシミシと音が鳴った気がした。


「グホッ……」


 そのままルリの体は弾かれ、その場で高く舞った。


 せめて受身を……。


「がっ……」


 地面に体が叩きつけられる瞬間、なんとか受身を取り、被害を最小限に抑えた。

 が、力を使い果たしてしまい、ルリのスクラープを纏う白い光は消えてしまった。

 それを見た死神も、同じように白い光が消えた。


「ハァ、ハァ……」


 息を整えろ。

 大丈夫だ。

 すぐに起き上がって、戦斧まで突っ走る。

 それから、それから......。


 すでにルリの体は限界を超えており、思考も上手くまとまらない状態であった。


「ウゥ……」


 倒れているルリに、死神が近づいてくる。


「クソっ……が……」


 ルリは半分死を覚悟しながら、なんとか体を動かそうとする。


 あばらが何本か逝ってるな。


 体が上手く動かない。


「……」


 死神はその様子をじっと見つめている。

 しかし襲ってくる様子がない。


「なん、だ?」


 死神は何もすることなく振り返り、森に向かって歩いていく。

 ルリは見逃された。

 安心した反面、屈辱も感じた。


「グガガアアアアッ!!!」


 まるで勝ち誇ったように、雄叫びを上げた。

 すると、先ほどのような地鳴りが聞こえてきた。


 さっきよりも大きい。

 あの叫び声は、モンスターを引き寄せることができるのか。

 とにかくここを離れなければ。


「ぐぅ……」


 ルリは地面を這いながら、仮拠点の方へ進み始める。


 早くっ。

 動け体。


 地鳴りはどんどん大きくなってくる。

 死神の姿はもうない。


 ルリは力を振り絞り、体を動かす。

 しかし、一向に距離は進まない。

 戦斧までの距離も縮まらない。


 こんなところでっ……。

 今度こそ死を覚悟したとき、ルリは体がフッと軽くなった。

 足元を見てみる。


 立っているのだ。

 ついさっきまで動かなかった足で立っているのだ。


 回復した?

 こんな短時間で?

 いや、まずはここを離れよう。

 考えるのは後だ。


 ルリはターボグライドを稼働させ、戦斧の元に駆け寄る。


 動きに支障はないみたいだな。


 ルリは地面に突き刺さった戦斧を引き抜いた。


「…………チッ」


 ふと最悪な展開が頭をよぎる。

 だが、いつまで体が動くかも分からないので、急いで仮拠点に向かって走り出した。




◇ ◇ ◇




――ルリがレオ部隊と離れた後



「も、もう少しで仮拠点だよ! みんな頑張って!」


 ダルカンが激を入れる。

 ルリが死神の元に向かったとしても、いつどこから瞬間移動などで現れるか分からない。

 部隊の隊員たちは、精神的にかなり疲労していた。


「――せんかー!」


 誰かの声が聞こえてきた。


「だ、誰です、か?」


 リャオは隊員の誰かが喋ったと思い、みんなに聞く。

 だが誰も声を出しておらず、全員が誰だ誰だと周りを警戒する。


「誰かいませんかー!」


 今度はハッキリ聞こえた。

 この声は……。


「ラギルス?」


「あっ! レオ部隊を発見! 総員周囲を警戒しつつ、保護して下さい!」


「はっ!」


 前方から、ラギルスを先頭に、別部隊が駆けつけてきた。


「た、助かった?」


 レオ部隊は走るのをやめて、緊張の糸が切れたようにその場に座り込んだ。


「大丈夫ですか!」


「その、あの……」


 ラギルスは、亡骸を抱える砲兵ガンナーに話しかけた。


「ッ……もう大丈夫です。よく一緒に帰還してきてくれましたね」


 ラギルスは優しく言葉をかける。


「う、うぅ……」


 女の砲兵は、うずくまってしまった。


「くっ……他の隊員の状況は!」


「スーリンが重症だ! 他の奴らは目立った外傷は無い!」


 ラギルスの呼び掛けに、ジャズが答えた。


「リャオさん。ここにいない方は……」


 ラギルスは申し訳なさそうに聞いた。


「あっと、第1小隊の近接部隊メレーの方が、真っ二つに……うっ」


 リャオが吐きそうな素振りを見せた。

 ラギルスはすぐに駆け寄り、背中をスクラープ越しにさする。


「ごめんなさい。嫌なことを聞いてしまい」


「うっ、大丈夫、です。それより、アランさんとレオさんが残って、さらにそれをルリさんが追って……」


「今の話は本当ですか?」


「はいっ」


「部隊総員! 半分はレオ部隊を仮拠点まで護送して下さい! もう半分は、私についてきて下さい!」


 レオ部隊と合流したのも束の間、ラギルスは次の指示を出し、森の奥へ走り出した。


「お、おい!」


 ジャズの呼び掛けに答えることなく、森の奥へ走っていく。


「クソっ……焦ってんじゃねぇよ。俺たちも行くぞぉ!」


「応ッ!」


 数人が、置いてかれまいとラギルスについていった。

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