第22話 死神戦(1)



「そこかっ!」


 何やら気配感じたルリは、戦斧を構え、茂みから飛び出した。

 しかしそこには敵はおらず、逃げてきたレオ部隊がいた。


「ルリ!!」


 一瞬身構えたが、ルリ専用の青いスクラープを見たダルカンは、歓喜の声を出す。


「ダルカン、無事って訳ではないな」


 もう息のない第1小隊の砲兵ガンナーと、重傷のスーリンを見てそう言った。


「そ、そうだっ! 今レオがアイツを食い止めててっ。それをアランが追って――」


 ダルカンが伝えようとしたことを理解したルリは、もう一度ターボグライドをフル稼働して走り出した。


「多分他の部隊が合流するはずだ! フォーンとの遭遇に気をつけて仮拠点に戻れ!」


 ルリは保護を他の部隊に任せ、レオとアランの救出に向かう。


「気をつけて下さい! アイツは瞬間移動ワープ能力を持っています!」


 第1小隊の狙撃手スナイパーがギリギリ情報を伝えた。

 それを確認したルリは、もう振り返ることなく、森の奥へ走っていった。




◇ ◇ ◇




「チッ……」


 ルリは走りながら様々なことを考えていた。


 敵はA級かS級で、瞬間移動ができる。

 レオが食い止めてるが、ダルカンのあの言い方だとかなり危機的状況か?

 問題はアランの方だ。

 かなり頭が切れるが、戦闘力はお世辞でも高いとは言えない。

 2人とも万全ではないだろうからな。

 最適解は撤退させることか.……。


「ん?」


 視界の端に人影が見えた。

 ルリは足を止め、戦斧を構えた。


「うぅ……ルリ、か?」


 そこには、ボロボロな体を引きずりながら、ターボグライドでゆっくりと進んでくるレオがいた。


「無事だったか」


 ルリは駆け寄り、怪我の具合を確かめる。


「正直、この討伐では、もう戦えない、けどね」


 レオは少し回復しており、意識もハッキリしている。


「もうこの森を抜けるぞ。撤退する。アランはどこだ? 第4小隊うちの砲兵なんだが」


「……」


 レオは黙ってしまった。


「おい」


「......」


「チッ......!」


 察したルリは、すぐにレオが来た方向へ向かおうとする。


「ダメだ」


 レオはルリの腕を掴み、止めようとする。


「離せ」


「彼が何の為に身を犠牲にしたかと思ってる」


「それはお前の指揮不足だろ。そのこともまた後で話してもらう。そもそもこの時間が無駄だ。離せ」


 ルリはレオの手を振り払った。


「待て。戦うんだったら伝えておく。あのモンスターはスクラープを纏ってる。出力上昇もできる。とてもじゃないが勝てないぞ」


「......そうか。お前は早く戻って治療しろ」


 そう言うとルリは走っていってしまった。


「おいっ!」


 もうルリの耳にはレオの声は届かなかった。




◇ ◇ ◇




「ウゥ......」


 木を切り倒したであろう開けた場所で、死神はただ突っ立っていた。

 白い光は消えており、少し休憩しているようにも見える。

 足元には斬り裂いた人間の姿が。


「......」


 その姿を見た死神は、何かを思い出しているようだった。


『俺が時間を稼ぐ! その内に逃げろ!』


『やめろ無茶だ! 早くこっちに来いッ!』


「ウゥ......?」


 頭の中に誰かの言葉が蘇る。

 懐かしいような、だがハッキリとは思い出せない。


 ――ガササッ


「……?」


 茂みをかき分けてくる音が聞こえた。


「ッ……!」


 ただならぬ殺気を感じ、死神は身構える。


「……お前だな」


 茂みの中から、怒気のある声が聞こえてきた。

 死神は茂みをじっと見つめる。


 バサッと音を立て、その声の主が姿を現した。

 このモンスター会いに来る奴など、もちろんあの男しかいない。

 その男は、仮拠点に通信を繋げてこう言った。


「第4小隊小隊長ルリ。謎のモンスターと接敵。交戦を開始する」





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