第18話 惨劇


「フォォオオオオッ!!」


 1体のフォーンがルリに向かって走って来る。


砲兵ガンナー構え!」


 第4小隊、第1小隊の砲兵が1人ずつ、ルリの背後で銃を構える。


「撃て!」


 その2人は、走ってくるフォーンの顔面を撃ち始めた。


 しかし、フォーンは角をこちらに向けて弾丸を弾くことで、怯むことなく突っ走ってくる。


「撃ち方止め!」


 ルリが指示を出し、2人は引き金を引く指を弛めた。


「ッ……? フォォ――」


 銃撃が止んだことに気づいたフォーンが顔を上げる。

 と同時にルリがフォーンの足元に忍び込み、胴から首にかけて戦斧を振り上げた。

 フォーンは青い血を噴き出し、叫ぶ暇もなくその場に倒れた。


「まずは1体」


 フォーンは飛び道具を自慢の角で弾く習性がある。

 しかしその間は視界がかなり悪くなるため、前方がほぼ見えない。


 つまりずっと撃ち続けてたら、敵を見失いかけていたから、銃撃が止んだ直後、敵の位置を確認するため顔を上げる。

 その瞬間は隙だらけって訳だ。


「この要領だ! 予め組んだチームで同じようにやること!」


 近接部隊メレー1人、砲兵2人のチームを2つ。

 近接部隊1人、砲兵1人、狙撃手スナイパー1人のチームを1つ

 近接部隊1人と狙撃手1人の、補助重視のチームを1つに分けていた。


「とっとと片付けて援護に行くぞ」


「応ッ!」




◇ ◇ ◇




「はい! これで全員自己紹介が終わりましたね!」


 ラギルスの部隊はまだ出撃しておらず、やっと全員の自己紹介が終わったところだった。


「やっとか……」


「まさか1人1人深堀りするとは……」


 ジャズとトーカはもうくたびれていた。


「よし! じゃあ出発……あれ? 他の皆さんは?」


「もう行っちゃったよ?」


 周りが見えてなかったラギルスに、アリナが教えてあげた。


「う、嘘っ!? 私たちも早く行かないと!」


 ラギルスが慌てながらスクラープを完全装備する。

 その時――。


「ほ、報告! レオ部隊からの通信!」


 第1小隊の騎兵トルーパーが、通信が入ったことを告げた。

 そこにいる全員が耳を傾けたのを確認すると、続けて通信内容を報告した。


「レオ部隊が! フォーンとは別の人型モンスターと遭遇! 難易度はAからS級と推測!」


 AからS級という言葉に、全員がどよめいた。


「げ、現状はどうなっていますか!」


 周りがざわめく中、ラギルスは現状の様子を聞いた。


「げ、現在第1小隊小隊長レオが応戦中。しかし、重傷者1名、し、死者2名……と」


 死者が出た。

 これだけで全員の士気がグンと左右された。


「……場所を」


 全員が静まり返る中、ラギルスは冷静に聞いた。


「む、向こうですっ」


 その騎兵は震えながら、先ほどレオ部隊が出撃した方向を指さした。


「ラギルス部隊! フォーン討伐からレオ部隊救出へ作戦変更! ついてきてください!」


 ラギルスはスクラープをフル稼働し、騎兵が指さした方向へ、全速力で走り始めた。


「おぉ、俺らも行くぞ!」


 ジャズの一言でみんなはハッとして、スクラープを完全装備してラギルスを追っていった。


「ベルハラ! お前を主軸に、今後の動きを決めろ! もちろんルリとグラルバにも連絡してからな!」


 ジャズはさらに、ベルハラに今後の大雑把な指示を出した。


「あ、ああ」


 返事したのを確認したジャズは、ラギルス部隊の最後尾を走っていった。


「……ふぅ。誰かグラルバに連絡してくれ! 私はルリに連絡する!」


 ベルハラは無理やり声を張って周りに指示を出した。


「クソっ……切り替えねぇと」


 ベルハラは、グレードフープを通してルリに通信を入れた。




◇ ◇ ◇




「どうして……どうしてこうなったんだ……」


 目の前の惨劇を見て、ボロボロなスーリンは、悲痛な声を上げた。


 ――それは20分前のこと。


「よし……敵だな。行くぞ!」


 人型モンスターに、レオは1人で飛び掛かった。


「フッ!」


 レオは一気に距離を詰めると、振りかざした剣を、頭目掛けて振り落とした。


 ガキンッと音を立て、レオの攻撃を大鎌の柄で受け止めた。

 そして、再び距離を取るようにレオを弾き飛ばした。


「今のを受け止めるか。だったら!」


 レオは先ほどと同じように距離を一気に詰める。

 今度は剣を振りかざさないで、あらゆる方向から斬撃を浴びせた。


「ウゥ……」


 レオのコンパクトな攻撃を柄で受け止め、躱し、傷を負うことなくすべての攻撃をいなした。


「オォッ!」


 攻撃を見切った敵は、攻撃の隙をついてレオの腹に蹴りを入れた。


「ぐっ……」


 レオは苦しそうな声を出し、後方に吹き飛んだ。


「レオが飛ばされた!?」


 第1小隊の砲兵が声を上げた。

 確かに蹴りだけで5、6mほど飛ばされたということは、かなりパワーもあるということだ。


「ちゃんと人間ぽいことするんだね」


 レオは吹き飛ばされるも、倒れることなく余裕を見せる。


「オォォッ!」


 余裕を見せるレオに、今度は敵が攻撃を仕掛けてきた。


「来い!」


 身構えるレオに一瞬で距離を詰めたと思うと、大鎌をぶん回してきた。


「くっ!」


 レオは見事に剣で攻撃を受け止めたが、押される形で弾かれた。

 大鎌が規格外の大きさのため、明らかに剣の反撃が届かない距離が保たれている。

 そのため、レオはその後も、大鎌による攻撃をただ凌ぐしかできなかった。


「――撃て」


 2人の攻防が激化する中、スーリンは通信で誰かに発砲の指示を出した。

 直後、スーリンたちから見て左の方向から重い銃声が鳴り響いた。

 陣形を組んでいる間に、1人しかいない狙撃手を絶好の狙撃位置に潜ませていたのだ。


「ッ……!?」


 人型モンスターは、とんでもない反応速度で間一髪弾を避けた。


「避けられた!」


 ダルカンは素っ頓狂な声を上げた。


「いや、ほんの少しだけでも隙を作れば……」


「ハァッ!」


 スーリンの言う通り、一瞬の隙を見逃さなかったレオが反撃に出た。


「余計なお世話なんだけどね」


 相変わらず減らず口を叩くレオは、下半身を集中的に連撃に出た。


「ウッ」


 身長が高く、大鎌の武器を使う人型モンスターは、低い連撃の対処に苦戦している。

 一気に攻守が交代した。


 この調子でいけば討伐できる。


 すでにスーリンの脳内では、レオが勝つ未来が見えていた。

 いくらリーチが長い大鎌でも、懐に入ればほぼ無力だ。


「うおおおおっ!!」


「いけぇええええ!!」


 レオや他の隊員も、押せ押せな雰囲気になっている。


「なんとかなりそうだな」


 アランが、後ろからスーリンに話しかけた。


「ああ、正直この部隊は、レオアイツがどれだけ優位に戦えるかにかかっているからな。ああなったらもうこちらのペースに――」


 突然、ブンッという聴いたことがない音がしたと思うと、人型モンスターの姿が消えた。


「は?」


 全員が、ハトが豆鉄砲喰らったように、モンスターがいたはずの場所を見つめている。

 その時、別の位置にいた狙撃手から通信が入る。


「後ろ!!!」


「がっ…………え?」


 通信直後、後方から悲痛な声が聞こえた。

 全員がゆっくりと振り返ると、そこにはあの死神のような人型モンスターが立っていた。

 右手に持った大鎌の刃を、第1小隊の砲兵の腹を突き刺した状態で――。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る